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弁護士法人 白浜法律事務所

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コラム

裁判所放浪記その3

ハード面から

京都では、裁判所の建替が進んでいる。弁護士会でも、庁舎建替問題について、委員会を新設して、議論している。そこで、おそらく全国的にも最も多くの裁判所を訪れている私としては、裁判所のハード面での比較検討をして、京都の庁舎建替問題に材料を提供する義務があると思うので、今回は、ハード面についての私見を述べたいと思う。

市民アクセスのよい裁判所、不便な裁判所
裁判所までの交通の便が最もよい裁判所(但し、その都市に住んでいない者にとって)は、東京地裁だと思う。地下鉄霞ヶ関駅すぐということで、新幹線から降りても約20分で法廷までたどり着ける。
2番目は、福岡地裁である。福岡地裁は、空港からのアクセスの良さが日本一である。地下鉄赤坂駅下車3分というところだが、この地下鉄が新幹線や空港と直結しているのである。
3番目は、ちょっと難しいが、おそらくは大阪地裁ではないか。京阪電車や地下鉄の淀屋橋駅から歩いて5分だし、歩いて10分以内に地下鉄の駅が数カ所ある。これだけ便利なところは少ないように思う。なお、弁護士事務所が近くにあるという点でも、市民にとって、便利なように思う。
4番目は、神戸地裁だろう。JRの駅から歩いて5分かからない点は評価できる。大津地裁もいいかも知れない。ただ、いずれも北部などの過疎地域からのアクセスがよくない点に問題がある。

これに対して、支部や簡裁を除けば、最も不便な地方裁判所は、富山地裁である(但し、全くの私見)。駅から遠い上に、バスもあまり走っていない。タクシーは電話で呼び出さねばならず、流しのタクシーは全くと言ってよいほど走っていない(※1)。なお、この点は、旭川地裁も同様(同率1位か)。平原の中にあって、車なしではたどり着けない。
2番目は、名古屋地裁のように思う(大きな裁判所であるにもかかわらずという点で、そう思う。)。これも新幹線の駅から遠いし、地下鉄の駅からも不便である。何よりも、官庁街にあって、弁護士事務所が近くにほとんどないという点は、当事者にとって裁判の前の打ち合わせなどがしにくく、利用者にとって不便なのではないかと思う(この点は、平原の中にある旭川地裁も同様。)。
3番目以降は、ちょっと難しいが、札幌地裁や仙台地裁も駅から遠いので不便。金沢地裁も、兼六園のそばにあって道路が渋滞するから、不便である(※2)。また、釧路地裁は、寒冷地にあって道路の凍結等を考える必要があるはずだが、高台にあって坂道を上らねばならないというとんでもないロケーションにある上(その代わり景色はいいが)、駅からも遠く、不便。ちなみに、京都地裁は、地下鉄や京阪電車の駅からまあまあ近いので便利な方に入るだろう。
なお、現在、京都地裁は、庁舎建替のため仮庁舎となっているが、この仮庁舎を岩倉地区に建設する話が持ち上がったことがあった。この話は、弁護土会の反対などで立ち消えになったが、市民アクセスの点では、岩倉のように、一般府民からすると交通が不便な地域に庁舎が建設されることは好ましくない。弁護士事務所から遠くなる点も実際に利用する人間からすれば不便であり、この計画が立ち消えになったことはよかったように思う。
いずれにしても、交通の便は、裁判所ではどうしようもできない点があって、これまで述べてきたことは、都市としての便利さの比較の問題という側面が強いのだが、どのような

庁舎が市民にわかりやすい裁判所と迷路のような裁判所
庁舎内が市民にわかりやすい裁判所のトップは、大阪高裁新庁舎だろう。なんと言っても、1階に案内係が配置されていること、広いロビーがあることが評価できる。ただ、法廷や書記官室の階は、初めて来庁した人には、わかりづらいように思う。エレべーターから降りた中央廊下からは直接には法廷に行けない。エレべーターから降りた位置の真正面に配置図が置かれてはいるのだが、黒い色調で精密に過ぎる図面となっていて、目立たないし、わかりにくい。説明図は、できる限り簡単な図面にして、しかも説明も大きな文字で書かれている方がわかりやすい(配置図がわかりにくいのは、東京地裁も同様。)。そして、大阪高裁の場合に、何よりも問題なのは、法廷に事件番号の表示しかされていない点である。当事者名が表示されていないと自分の事件が開廷される法廷かどうかがわかりにくい(素人はなおさらであろう。)。
反対に、法廷や書記官室などの位置が来庁者にわかりやすいのは、札幌地裁である。平成9年の内部の改装でぐんとよくなった。エレべーターから降りて真正面の位置に配置図が掲示されていて、非常によく目につく。この掲示板には、別の階に何があるかも掲示されていて、迷ったときにも目的の部屋を見つけやすい。エレべーターから横をみた真正面には、矢印つきで各部屋の位置が掲示されていて、どちらに曲がれば目的の部屋にたどりつけるか一目でわかる仕組みになっている。人の動きをよく理解した配置である。また、廊下や天井、床の配色が明るく、気持ちがよい。
ただ、惜しいのは、各部屋の掲示が、学校の教室の掲示のように、廊下に90度の位置に張り出した板による方式ではなく、壁に張り付けた掲示となっているところである。その部屋の直前まで行かないと部屋の名称がわからないので、若干不便なように思う。廊下からみて、部屋の位置がわかるようにするには、教室の掲示板方式がよいと思う。
なお、福岡高裁でも内部の改装が進行中であるが、廊下の天井に部屋の案内と矢印がつけてあり、非常にわかりやすかった。ところで、ほとんどの裁判所では、法廷棟は、書記官室、裁判官室のある事務棟とは分かれている(東京地裁や大阪地裁・高裁、札幌地裁などでは階が分かれている。)。これは、法廷での弁論から和解に切り替わって移動するときなど分かりにくい。弁論なのか、和解なのかわからなかったときなどは、法廷棟と事務棟を移動する時間をとられることも多い。
この点、名古屋地裁は、事務棟と法廷棟がかなり近接していて便利である(改装された福岡高裁も同様である。)。
ただ、残念ながら、名古屋地裁の事務棟は、廊下の裏にも廊下があるような配置となっている上、和解室や書記官室などの各部屋がこの二重の廊下を通って行かねばならない位置に配置されていたりしていて、まるで迷路のようである。この迷路の存在で、総体的に評価すると市民には使いづらい裁判所の一つになってしまうのが残念である。
宮崎地裁本庁も、掲示がわかりやすいし、内装も明るく、親しみが持てる裁判所である。確か、札幌地裁と同じような掲示板を採用していたように記憶している。なお、宮崎地裁の法廷は、後述するように工夫されている。
以上のような裁判所と比較すれば、大抵の裁判所は、迷路のようにわかりにくい配置となっていて、初めて来庁した人には極めて使いにくい迷路のような形態となっているのが普通である。その中でも、取り壊された京都地裁本庁が最も来庁者にわかりにくい裁判所であったように思う。弁護士控室の所在などは、弁護士の中でも知らない人がいただろうし、証人控室に至っては、これを打ち合わせなどに使用するような弁護士は数える程ではなかったか。また、旧庁舎の階段は急な上に滑りやすく、身体障害者や老齢の人にとって利用しにくいことこの上ないものであった。

法廷や書記官室の設備

電話など
新民事訴訟法では、トリオホンによる電話会議が導入されているが、これが実際には設置できていなかったり、トラブって実際上使えない裁判所はかなりの数がある。支部ではほとんど導入できていないのではないか心配である(※3)。
また、FAXも、新民訴法では重視されるが、FAXが裁判所に1台しかなかったりするところもかなりあるようのである。
京都地裁の旧庁舎は、公衆電話が使いにくい点でも不便な裁判所であった(2階に3つしかなかった。)。和解などには本人を連れてくるべきだとの発想に立脚しているのかも知れないが、これだけ電話が普及した世の中で、3階の和解室から1階まで電話をかけに行ゆかねばならないのには疲れた。京都の弁護士の中に携帯電話が普及したのは、京都地裁の構造にも一因があるように思う。いずれにしても、和解室がある階には公衆電話を設置するのが一般的な裁判所であって、これがなかった地裁本庁は京都地裁だけだったように思う。

法廷施設
宮崎地裁では、証人席の前の証言台をカメラで撮影する装置が導入されていて、証人などに書証を示すときに、両代理人や裁判官にもテレビで映像が見えるようになっていて、審理しやすい法廷とされているところがある。三者全てによく見えるからわかりやすい上、証人にやたらべったりとくっついて威迫的な尋問をするような代理人の行動も防げるように思う。
また、大抵の裁判所では、声が聞き取りやすいようになっているが、マイクによる拡声まで行っているところはない。マイクは、書記官や速記官のテープ録音用に配置されているだけである。傍聴人や難聴者に対する配慮には多少欠けているように思う(※4)。

分煙について
分煙などの嫌煙権への配慮は、新築や改築の行われた裁判所のほとんどが採用しているように思う。利用者の健康や汚い空気を吸わされたくないという人格への配慮からすれば当然のことである。施設が新しくなれば、気密性も高まるので、なおさら配慮されて当然であって、新しい京都地裁もぜひそうなって欲しいと思う。

障害者や高齢者への配慮
スロープ、エレベーター、自動ドアなどの障害者に配慮した施設は、支部を含めて大抵の裁判所でも設置されるようになってきている。但し、廊下などに点字ブロックや点字シートが設置されている裁判所は少ないし、点字による配置案内図もあまり設置されていないように思う。法廷に点字シートがある裁判所も見たことがない。また、難聴者に対する配慮があるなと感じられるような裁判所は皆無ではないか。

弁護士控室
裁判所のそばに弁護士会館があるところは、会館で打ち合わせすることもできて、便利である。これに対し、自前の弁護士会館を建築された弁護士会の中には、裁判所からちょっと離れたところに会館があって、不便なことがある。いずれにしても、その地方の弁護士会に所属しない弁護士にとって、裁判所の中の弁護士控室は貴重なものであるが、裁判所によっては、これが貧弱なことがあり、困ることもある。鍵がかかっていて中に入れないことも少なくない(※5)。東京地高裁の6階と8階にある弁護士控室の鍵が開いていることを経験したのはこの10年間で一度しかない。最近では常時閉鎖されていて、開かずの部屋と化しているようである(東京地裁の書記官には、その存在すら知らない人がいる。)。また、東京地裁1階の弁護士控室は、分煙になっておらず、煙草臭くて、煙草を吸わない人間にとっては、長時間待機する気持ちにはなれない極めて劣悪な環境となってしまっている。

以上、裁判所のハード面についての感想を書いたが、市役所など市民が頻繁に利用する施設と比較すると、裁判所の施設は利用者に冷たいように思えてならない。改装や改築、新築の際にぜひとも改善してほしいものである。
また、弁護士会は市民の代弁者として、裁判所に意見を述べる必要があると思う。また、裁判所も市民の声に謙虚に耳を傾けて欲しいと思う。

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※1
富山地裁での弁論が終わって、少し時間があったので、流しのタクシーが走っているだろうと思って、ぶらぶらと歩いて帰ろうとしたら、全然いない。結局、富山駅まで30分以上歩くことになってしまった。ちなみに、佐賀地裁とか青森地裁とかでも、流しのタクシーはすぐに拾える。

※2
金沢地裁は城のそばにある。JRの駅からは直線距離にしたら、それほどの距離はないのだが、城主が外敵から城を守ろうとしたためだろうか、道路がくねくねと曲がっていて、実際に到着するまでは、意外に時間がかかる(つまり、駅から近いようで遠いから、遅刻しないようにしてほしい。)。

※3
山形地裁で実験的にトリオホンでやってもらったとき、うまくいかず、結局、裁判官が2つの受話器を両耳にあてて、裁判官の頭蓋骨を通じて、互いの代理人が会話したということがあって、笑いをこらえるのに苦労した(本当である、決してネタではない。)。

※4
余談だが、裁判所が新しくなると法廷の天井が低くなる傾向にあるように思うが、法廷の天井が高いと何となく気持ちがよく、すがすがしい気分で審理に臨める。法廷の広さも同様である。狭苦しい法廷よりも、広く天井の高い法廷で晴々とした気分で審理に臨むと、証人なども変な小細工などしにくくなるのではないか。証言心理学などで法廷の施設と証言についての研究などがされていたら、ぜひ研究してもらいたいように思う。 ちなみに、天井の高さでは盛岡地裁一関支部が一番のように思う(仙台高裁管内は法廷の天井が高いような気がするが気のせいだろうか。)。広さの点では、京都地裁の陪審法廷が一番だっただろう。こういう広い法廷はぜひとも各裁判所で1つは設置するようにしたらどうだろうか。

※5
長崎地裁には、敷地内に弁護士会館がないが、裁判所内部の弁護士控室の鍵を弁護士会事務局で閉めたままにしていて、中に入れなかったことがあった。たまたまのことだったらしいが、何となく、釈然としないものを感じた。

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(注) 本稿は、京都弁護士会ホームページに於いても掲載されています。原稿に書かれた内容は、白浜が経験した、当時のものであるということを、お断りいたします。

著 白浜徹朗