遺言作成の事例

ケース1 遺された妻の生活が心配なとき

息子が3人いるが、仲が悪い。私は病気などしていないが、もしもの事があったとき、息子たちが遺される妻の面倒を見てくれるのか心配だ。

遺される奥様と仲のよいお嫁さんに、奥様の世話をしてもらう条件で、その負担に見合った財産を遺贈することができます。これを遺言書に書いておくとよいでしょう。
相続人ではない人に遺産を与えることを「遺贈」と言います。遺贈であれば、遺産を与えるための条件(負担)をつけることができます。これを「負担付き遺贈」と言います。お嫁さんはあなたの相続人ではないので、これが可能です。もし、お嫁さんが条件を守らない場合は、遺贈が取り消されることもあります。負担付き遺贈は、奥様の生活を安定したものにしたいというあなたの思いを法律的に担保すると言えるのです。実際には、そのお嫁さんにもそれとなく同意をもらっておくとよいでしょう。


ケース2 特定の子にたくさん遺産を残したいとき

娘が3人いるが、妻の亡き後、末娘が何かと私の面倒を見てくれている。上の2人には申し訳ないけれども、私に何かあった時には、末娘に少し多めに財産を遺してやりたい。

遺言では、3人それぞれに残す財産や財産の範囲を指定することができます。例えば、長女には株、次女には、郵便貯金、残りを全て三女に、という方法です。
子は平等にかわいいとは言いますが、あなたの面倒を見てくれているお子さんに少しでも多くの財産を遺してやりたいという気持ちは、親といえども自然なものです。遺言では、あなたの感謝をかたちにすることができるのです。
ただし、注意すべきことがあります。他のお子さんには、最低限保証される相続分があるのです。これを「遺留分」と言います。したがって、例えば財産を全部1人に相続させる遺言を残してしまうと、他のお子さんから遺留分を侵害されたという不満がでて、相続争いに発展することがあります。
そこで、あなたのケースでは、遺留分を侵害しない程度で長女と次女に与える財産を定めておくことで、お子さんたちの間で相続争いが生じないように配慮しつつ、三女のへの感謝をかたちにするのがよいでしょう。なお、なぜ三女に多くの財産を遺すのかということを書き加えて、あなたの遺志を明確にしておくこともできます。


ケース3 別れた妻が引き取った子に確実に相続させたいとき

20年前に別れた妻との間に一人娘がいる。妻は娘を引き取ったあと再婚した。娘には一度も会えていないが、ずっと私が気に掛けていたことを分かって貰いたい。

ご息女に遺産を相続させる遺言を、ずっと気にかけていた想いとともに遺すとよいでしょう。また、遺言執行者を指定しておくと確実です。
このケースでは、離婚した奥さんに相続権はありませんが、ご息女には相続権があります。あなたに親権がなくても同じです。
ただし、ずっと連絡を取っていないという場合、あなたが亡くなられたこと自体がご息女に伝わらない可能性が高いと思われます。そもそも、ご息女は、あなたのことを悪く聞かされたり、ずっと以前に亡くなっていると聞かされていて、たとえ伝わったとしても非常に混乱されるかもしれません。
このような場合のために、あなたに代わって遺言の内容を実現してくれる人を指定しておくことができます。そのように指定される人のことを「遺言執行者」と言います。
このケースでは、遺言執行者が、ご息女にあなたのご遺志を正しく伝えて、財産をきちんと受け取ってもらえるように活動します。あなたは、亡くなったあとでも、遺言書を通じてあなたの遺志を伝えることができるのです。遺言執行者には、あなたの遺志を直接聞き取って、遺言書を作成した弁護士を指定しておくのが合理的でしょう。