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弁護士法人 白浜法律事務所

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白浜の思いつき
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2012/07/18

弁護士過疎地域に法科大学院が必要なのでしょうか

弁護士過疎地域に法科大学院が必要だという意見がかなり強く主張されていて、この意見を支持される方も多いようですが、私は、賛成できません。弁護士過疎地域には、法科大学院を設置するよりも、エクスターンシップなどで、実際に弁護士事務所での職務体験を積む経験をする機会を増やすことと、そのような地域でのエクスターンシップへの経済的援助を強化することがより効果的だと思います。極端な話をすれば、たとえ法科大学院がなくなったとしても、過疎地域での実務修習を可能にするなどすれば、それで足りると思います。
そもそもゼロワン地域の解消を象徴とする弁護士過疎偏在対策の成果は、過疎地に設置された法科大学院によるものではありません。ゼロワン地域の解消は、法科大学院出身者が弁護士になる前にほぼ完了しつつありましたし、実際に、いわゆるゼロワン地域などの弁護士過疎地域に赴任した方々は、弁護士過疎地出身者の方ばかりということではなく、当該地域とは全く縁もゆかりもない方がかなり多く、過疎地の法科大学院出身者ではない人の方が多いはずです。従って、過疎地に法科大学院を設置すれば、弁護士過疎偏在対策に効果的だということは、何らの実証的裏づけもない考えだと思います。
また、弁護士の過疎偏在地域は、全国各地にあったわけですし、都市部の近郊でも、弁護士事務所がない地域は沢山あります(但し、そのような地域全てに弁護士事務所が必要だと、私が思っているわけではありませんので、誤解されませんよう。)。このため、弁護士過疎地域に法科大学院を設置したとしても、なぜ、当該地域だけに設置するのかという問題が生じることになります。この問題は、例えば鳥取県に法科大学院を設置したとして、この法科大学院の出身者が北海道の弁護士過疎地域に赴任することがなぜ期待できるのかという根本的な疑問に答えることができないのではないかと思うのです。また、法科大学院として人材を育成しようと考えた場合、最低でも20名は学生を確保する必要があると思いますが、他方で、弁護士過疎地域は元々弁護士の雇用需要が少ない地域であることは否定できませんから、上記のように例えば鳥取県に法科大学院があったとして、学生の数に相当するような20名ほどの弁護士の雇用需要があるとは到底思えません。つまり、弁護士過疎地域に法科大学院を設置しても、当該地域だけでは雇用できないという問題が生じることも充分あり得ることになります。
このように考えると、弁護士過疎地域に法科大学院を設置しなければならないという考えに合理的な裏づけはないということは、おわかりいただけるはずです。
私は、弁護士過疎地域に弁護士が増えるようになった最大の原因は、過疎地域に設置された法律相談センターによって、当該地域における弁護士への需要を実感できる弁護士が増えたことと、当該地域での法律相談その他の弁護士事務を実体験できる弁護士が増えたことにあると考えています。実際に公設事務所などに派遣された方は、このような経験を積んだ方がほとんどだと思います。つまり、大事なことは、弁護士過疎地で法律の勉強をすることではなく、過疎地での法律実務に触れる経験が増えることなのです。そう考えると、弁護士過疎地域への赴任者を増やそうとすれば、過疎地での修習に経済的援助をすることが最も効果的ということはおわかりいただけると思います。
また、司法修習における給費制の廃止など、法科大学院に要する予算によって、司法修習という法曹養成の根幹にしわ寄せが来ている中、あえて過疎地域に法科大学院を設置するということが、国家予算の運用として果たして妥当なことかということも問題です。国税が使われている以上、効率的な運用が行われるべきことは、国民的要請だと思いますが、過疎地に法科大学院を設置するということは、上記のような問題がある以上、国家予算の効率的な運用という要請には応えていないと思うのです。これに対し、過疎地での修習やエクスターンへの援助であれば、法科大学院を設置する予算の数%で(%にすらならないかも)予算としては充分過ぎることになります。
なお、医師の場合、ほとんどの都道府県に医科大学が設置されているという状況がありますが、残念ながら、現在の日本では、全国に法科大学院を設置するほどの需要がないことは、現状でも撤退する法科大学院がでてきていることから、既に実証されています。日本の医師の数は、約28万人であるのに対し、弁護士は急増による弊害が指摘されている中でも3万2千人に過ぎません(但し、国際的な統計比較という観点からは、司法書士や税理士、行政書士を加えて比較する必要があるということに注意は必要ですが。)。社会的な需要という観点からすれば、医師と弁護士では、1桁違うわけです。これを同列に考えるのは、弁護士は何をうぬぼれているのかという社会的非難を受けるように思えてなりません。ちなみに、医師会では、医師不足という側面があることは認めながらも、教育の質などを考えると大学の新設などは認めるべきではないという立場を採っています。日弁連と比較すると、日本医師会の方が、国民に責任のある提言をしているように思えてなりません。
また、私は、ゼロワン地域が解消された以上、もはや弁護士過疎偏在問題は、一つの山は越えていると考えています。弁護士過疎偏在問題は、今や、派遣者の確保の問題ではなく、いかに赴任者の定着を図るかが大事な時期に来ていると思うのです。赴任者の定着が大事だということであれば、過疎地に今以上の弁護士を送り込むことが果たして正しいことなのかということも考える時期に来ていると思います。そういう意味でも、弁護士過疎地域に法科大学院を設置するということをことさらに強調する必要性がどこにあるのだろうかと思うわけです。