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弁護士法人 白浜法律事務所

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白浜の思いつき
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2010/06/20

宇都宮会長と高木元連合会長との論争について思うこと

毎日新聞が、弁護士の就職難をめぐって、前連合会長・高木剛氏と宇都宮日弁連会長との論争を取り上げている。
http://mainichi.jp/select/opinion/souron/news/20100620org00m070003000c.html
宇都宮会長は、実際に就職難が生じていることを訴えつつ、他方で、裁判官や検察官は増えていない状況を指摘しているのに対して、高木氏は、就職難の状況を全く知ろうともせずに、「経済活動のテンポの速さに対応するには、司法の容量が小さすぎ、訴訟に時間がかかりすぎた。具体性を持った改革を進めていくため、合格者の目標人数を決めた。」と、弁護士人口爆発政策が、抽象的な議論の下に策定されたことを言うだけになってしまっている。失業保険の受給資格もない何百人もの失業者が出現するかも知れない現状に対して、労働組合出身者が発する言葉とは私には思えない。
さらに、高木氏は、「資格を取った人が高いレベルで所得を得るのに越したことはない。だが、どんな職業の人でも、自分たちの領域や需要の拡大に努力している。今の就職難や借金の話は、苦労して法曹資格を取ったのだから、せめて食いぶち保障をしろ、というようにも聞こえてしまう。」と言う。しかし、そもそも宇都宮会長は、実際に修習生の就職先がない現状にある、つまり、資格を持った失業者が沢山出現する可能性があるということを訴えているのであって、高い給与を保障せよというような話はしていない。また、実際に私がみている限り、修習生は、就職活動に懸命に努力している。修習専念義務のある修習生は営業活動などもできないのだから、修習生に就職先確保に努力せよと言うのは筋違いであるし、かわいそうでもある。高木氏は、弁護士会が就職先を確保せよというのかも知れないが、実際に、弁護士会としてはかなり無理をして就職先を探して、修習生に情報提供をしてきたが、もはや限界に達したというのが実情である。そのことは、この数年のうちに修習を終えた人たちに聞けばよくわかることである。ひょっとして、高木氏は、司法修習は研修所だけがやっていると誤解されているのではないか、また、司法修習のほとんどは、実務修習が担っていて、各指導担当弁護士が無給で修習生の実務指導をしていて、就職先の面倒などの相談にも乗ってきているという実情をご存じないのではないか。
立会人(伊藤正志論説委員なのか伊藤一郎氏なのかは不明だが)は、「弁護士全体の収入は一般の目から見ても高い。パイを奪われないよう、先輩弁護士が若手の参入を阻んでいる印象も受けるが」というが、この論理でいえば、今事務所を経営している弁護士は、自分の事務所の経営は無視してでも若い人を雇えということになろうが、なぜ、弁護士だけがそのようなことを言われねばならないのか理解しがたいところがある。弁護士は、一人で仕事をしているわけではなく、事務員も抱えている経営者でもあるのである。今の経営状態に合わせて、新人を雇い入れるかどうかを決めるのは当然のことであって、経営を無視して雇い入れろなどと言われる立場にはない。若者の就職難があるから、黒字を赤字にしてでも若者を雇い入れろなどとは企業ですら言われていないはずである。なぜ、弁護士だけは赤字になっても人を雇い入れろと言わんばかりの非難を受けなければならないのだろうか。ただ、実際には、自分の事務所の経営は人を雇うほどではないけれども、若い人がかわいそうだから何とか雇ってあげようかということで無理して雇い入れている弁護士事務所がかなりの数になっているのである。決して努力していないわけではないのである。また、そもそも、マスコミも修習生を爆発的に増やして社会の隅々にまで進出させたらいいと提案し賛同していたはずである。そうであれば、新聞社も弁護士を大量に雇えばいいのである。自分のことは棚に上げて、他人事のような話をされても困る。また、弁護士が若手の参入を阻んでいる事実などない。むしろ、即独支援とか、ノキ弁の紹介など、劣悪な労働環境での就労についても問題にすることすらできず、むしろこれを奨励しているのが実情である。立会人は、取材をされた上で話をされているのか大いに疑問である。そろそろ、弁護士の就職難という問題が、社会需要をろくに調査もせずに、しかも、途中の増加に伴う労働環境の変化も検証することもないままに、合格者の爆発的増加を続けたことに原因があるということに気づいてほしいと思う。
最後に、伊藤正志氏は、「『社会正義の実現』など法律上も特別の使命が要求される弁護士に、競争至上主義がそぐわないのは分かる。ただ、今でも頭打ち状態の合格者数をさらに減らすのはどうだろうか。活動領域を広げるため、弁護士も頭を切り替える必要があると思う。」と締めくくっているが、問題は、今年12月に大量の失業者が発生するという事態にどう対応するかということであることをまるで理解できていないように思う。これまで、即独やノキ弁で何とか取り繕ってきた隠れ法曹失業者が、公然と何百人と出現したときに、どう対処するのかということが社会的に求められているのであって、机上で非現実的な理想論を話している場合ではないのである。繰り返すが、修習生は1年間修習に専念してきているが、職がみつからなければ、失業保険すらもらえない立場にあるのである。生活に直結する問題なのである。また、そもそも弁護士が頭を切り換えたぐらいのことで、今年の12月に大量の雇用を確保できるというような魔法があるのなら、教えていただきたいものである。弁護士は、実際に事件を抱えてその処理に追われつつ、仕事をし、その中で経営改善に努力している弱小企業がほとんどである。マスコミのような大企業ではないので、広告宣伝にも資金を割く余裕はないし、自ら営業をする余裕もほとんどないのである。また、そのような努力をしたところで、即効性はないというのは社会常識のように思える。
最後に一言。法曹人口論について議論するにあたっては、実際に懸命に努力している若者の人生に関わる問題であるということを踏まえて発言していただきたい。修習生やロースクール生は社会実験の実験体ではないのである。少なくとも、マスコミ人であれば、実際に修習生の声を聞く取材をしてから議論していただきたいと思う。