京都で弁護士・法律相談ならお任せください。

弁護士法人 白浜法律事務所

0752233444
0752233444
白浜の思いつき
白浜の思いつき

2017/12/26

架空請求Q&A

:携帯電話に身に覚えのない料金を請求するメールが届いたのですが、どうしたらいいでしょうか。
:最近、話題となっている架空請求だと思います。怖いことはありませんから、無視してください。

:気をつけた方がいいことはありませんか。
:相手の言うとおりに返答をすると、丸め込まれたり、脅されたりして、払う必要のないお金を支払うことになることがありますから、無視することが一番です。特に危険なことは、生年月日や住所、電話番号、メールのアドレスなどを回答してしまうことです。携帯電話への架空請求は、ほとんどがあてずっぽうな請求ですが、このようなメールに不用意に回答してしまうと、悪質業者にあなたの情報が流れてしまうことになるので、注意が必要です。また、アンケートなどを仮装して、あなたから情報を引き出そうとする業者もいますから、携帯メールによるアンケートには特に注意が必要です。これは、携帯のメールだけでなく、パソコンのメールなども同様です。

:文書で架空請求が来た場合などは、どうですか。
:文書での架空請求が届いたということは、悪質な業者にあなたの住所氏名の情報が流れているということになりますから、今後も、同じような請求が届くかも知れません。一切無視することです。回答して、生年月日や電話番号などを教えることは、絶対にさけてください。

:裁判所や弁護士事務所から書類が来たような場合はどうですか。
:裁判所や弁護士事務所の名前をかたる架空請求もでてきていますから、注意が必要です。身に覚えのない請求が裁判所や弁護士事務所から届いたら、まず、電話帳などで、電話番号を確認して書類に書かれている電話番号と同じかどうか、確認してください。携帯電話の番号が記載されているものとか、該当する弁護士事務所がないというような場合には、間違いなく架空請求です。ただ、本当に裁判所に訴訟を提起するという事例もでてきているようですから、裁判所からの正式な書面ではないかと思った場合には、必ず、裁判所に問い合わせてください。後は、裁判所などの指示に従ってください。

:間違えて、住所とかを教えてしまった場合は、どうしたらいいですか。
:しつこく請求がくるようでしたら、弁護士に相談した方がいいでしょう。また、小額だから面倒だからということで支払ってしまうと、請求したら支払ってくれる人だという情報が悪質業者に流れることとなりますから、絶対に請求に応じてはいけません。

著 白浜徹朗

2017/12/26

司法試験に合格しても弁護士になれるとは限らない

欧米諸国と比較すると、日本の弁護士の数は不足しているということが、学者などから言われることがある。ただ、これにはマジックがあり、欧米には存在しない職種である税理士とか司法書士、行政書士などの法律専門職の数が弁護士数に含まれていないのである。

日本では、紛争となった場合には弁護士に相談し、日常的な業務に関するような法的処理は、司法書士や税理士に依頼して処理するという言わば棲み分けが行われているのであるが、そのような社会的実態を考慮することなく、単純な数の比較だけをもって、弁護士が不足しているという話になってしまう。そして、弁護士の数をもっと増やして、弁護士を市場原理で淘汰するべきであるなどとも言われる。特に、ロースクールなるものが登場してからは、弁護士数を増加させるべきであるという声は日に日に大きくなっているようである。ロースクールに合格すれば、そのほとんどが弁護士になれるかのような話が広く出回っていたことから、法学部の人気が過熱した時期もあったようである。この話を受けて、社会人の中にも、弁護士資格を得ようとロースクールに走った人も多いと聞いている。

しかしながら、現実はどうだろうか。実は、極めて厳しいのが現状である。現に、今年の司法修習修了者には、司法修習は終えたが就職できなかった人がかなりの数発生しているのである。

つまり、58期(平成16年春より修習)の今秋(平成17年秋)の就職者は、弁護士が911名(うち女性が204名)、裁判官が124名(女性34名)、検察官が96名(女性19名)となっているので、法曹となった人の合計は1,131名(男性874名、女性257名)ということになる。しかしながら、司法修習の最終試験である2回試験の合格者は1,158名ということなので、計算上は、27名が法曹にはならなかったということになる。ちなみに、58期は、合格留保が31名、不合格が1名なので、平成17年の秋に就職しなかった人は、60名近くになっているわけである。

つまり、せっかく難関の司法試験に合格して厳しい修習を終えた後でも就職できるとは限らないというのが、平成17年の司法修習生の現実なのである。しかも、上記の数字は、司法試験合格者1200人時代における数字である。合格者1500名の59期生の就職(平成18年秋)にはさらに困難が伴うことは必至であり、実際、弁護士の中では、59期生の採用枠が大きく増えることはないので、59期生の就職はかなり厳しいのではないかと危惧されているようである。

では、今年から新司法試験の合格者を輩出するはずのロースクールの場合どうなるのであろうか。ロースクールの第1期生は、途中で旧司法試験に合格した人もかなりいたようなので、卒業生は入学時点よりは少ないのではないかと予想されるものの、彼らが新司法試験に合格し修習を終えて実際に就職する頃にはどうなるかというと、実は、59期生や60期生の就職よりさらに厳しくなることは必至である。なぜなら、ロースクール第1期生は、最後の旧司法試験組である60期の修習生(平成19年秋就職)が1500名就職活動をするのとほぼ同時期に就職先を確保する(ロースクール第1期生は修習期間が短縮され、平成18年秋より約1年の予定で司法修習を行う。)ということになるからである。このため、ロースクールを卒業し司法修習も終えたが就職はないという人たちが大量に出現する可能性があり、これが法曹界における2007年問題と言われているのが実情なのである。法曹界以外では、2007年問題というのは、団塊の世代が大量に定年を迎えて、大卒の新人確保が厳しくなるという労働力受給のアンバランスを指しているようであるが、法曹界だけは逆の意味で使われているというのは何とも皮肉なことである。そして、この第1期生で新司法試験に合格できなかった人が、翌年も試験を目指すとなれば、第2期生以降も試験合格は厳しくなるということになる上、試験合格後も、就職できなかった新司法修習生たちと就職も競わねばならないということになるわけである。

ただ、これまでのように、試験に合格すれば就職できるというような状態が正しいかと言えばそうではないことは確かであろう。弁護士が資格さえあれば食っていけるようなことではおかしいと思う。しかし、司法試験のような過酷な試験で、しかも、若い人たちが何年も修習という修行期間を経たにも関わらず就職できない人が大量に現れるということが正しいことであるとは私には思えない。修習には国家予算も使われている。ロースクールもしかりである。無駄が許されていいはずもない。そして、このロースクールや司法修習での研修は、国民の人権に直結することであるから、もったいないなら削ればいいというものでもない。大事な予算なのである。そんな貴重な予算を費やして、法曹にならない人を育てることが正しいことであるとは思えない。医師の場合、国家試験に合格しても医者にならないというような人は大量には存在していないはずであり、法曹資格者だけは何百人もの法曹にならない有資格者が出現するというようなことでいいのだろうか。

では、弁護士事務所に就職できないのであれば、最初から独立して開業したらいいかというと、そんな弁護士を国民が望んでいるとも思えない。これまで、弁護士は、先輩弁護士の指導の下で、研鑽を積んで仕事にあたってきたのであり、そのような裏付なしに独立開業する人を増やした場合に迷惑を被るのは国民であろう。また、実際のところ、最初から独立して仕事ができるほどの弁護士に対する社会的需要はないのが現状である。もめ事に巻き込まれた人たちが弁護士に費用を支払うということは大変なことであり、弁護士には「市場」開拓という言葉はあまりピンと来ないのが現実である。本来、弁護士は儲けるための仕事ではないし、儲かる仕事でもないということは忘れられてはならない

なぜ私がこんなことを書いているかと言うと、私は、修習生の就職活動のお世話をすることが多い弁護士の一人であると思うが、身近にみていても、最近の就職活動は本当に大変だからである。そして、実際の数値としても、平成17年になって、合格者1200名時代であってさえ20名を超える就職先不明者が出現したのである。この事態がさらに300名も合格者の多い来年度以降どのように推移するかは、極めて厳しいということを私は実感している。しかるに、私には、この現状が、実際にロースクールを目指そうとしている人たちに正しく伝わっていないように思われてならない。だからこそ、実際に修習生を身近にみている弁護士から実態を知らせる必要があると考えたのである。

机の上だけで法曹人口論を唱える人たちは、この問題が若者の人生に深く関わる問題であるということを考えてみてほしいと思う。とにかく沢山合格させればいいというわけではないはずである。何年もかかって合格して喜んで研修を積んだものの、実際には就職ができない若者が大量に出現するようなことが果たしていいことなのだろうか。そのときには、他の就職の道は閉ざされているかも知れないのである。安易な合格者増員論に警鐘を鳴らす意味で、本稿にて修習生の就職実態の一面をお知らせした次第である。

著 白浜徹朗

2017/12/26

裁判所放浪記

放浪する弁護士

私は、全国各地に事件がある。おそらく日本の弁護士の中でも、最も多くの裁判所を訪れた弁護士の一人だと思う。例えば、東は釧路地裁、西は佐世保支部(長崎)、南は知覧支部(鹿児島)、北は旭川地裁といった具合である。
裁判官が転勤で頻繁に交代するせいか、裁判所はどこでも同じ雰囲気をもっている側面があるのだが、反面、その地方独特の特色が出ているところもあって、出張していて面白い。例えば、札幌で証人尋問したら、私の尋問部分まで北海道弁になっていた(そんなことはないんでないの)ということもあった。こういう弁護士が東京や大阪ではなく京都にいるというのも面白いが、長谷川先生から、貴重な経験だから京都弁護士会報に投稿したらどうだという勧めがあったので、「裁判所放浪記」という題で寄稿してみようと思った次第である。
まずは、初回ということで(好評なら、続編を寄稿する予定である。)、裁判所への批判的視点をもった出張残酷物語から始めることにする。なお、これから紹介するエピソードは、あくまでも私が体験した主観的なものであって、今現在一般的に行われている取り扱いではないかも知れないということはご承知おきいただきたい。

早く来い!
東京地裁というところは、お上意識の強い裁判所らしく、「さすが東京地裁」というエピソードが多い。独立する前の話だが、東京地裁に手形訴訟を提起して、事務員が弁論期日を決めてもらおうとしたところ、書記官から、「弁論期日は午前10時しかないので、午前10時に指定する」と言われたとのことである。まだ「のぞみ」も走っていない時代である。私はびっくりして、地裁に電話をかけて、「午後にならないのか」と交渉してみた。書記官からは、「東京地裁手形部では午後は証人調べをすることになっているから、午後には弁論はしていない。との返答。「それでは、地方の弁護士は、宿泊せねばならないのではないか」と猛烈に抗議したのだが、開き入れてもらえなかった(※1)。

独り言:「東京以外に住んでいる人間が東京で訴訟を提起する場合には、東京の弁護士に依頼せよとのことなのだろうか。やはり前日から泊まって東京見物でもしているのだろうか。」

早い者勝ち!
これも独立する前の話だが、東京地裁で和解期日を午後4時に指定されて、時間前について出頭カードに署名し(※2)、ついでに他のカードを見回したところ、午後4時には3件の和解事件が指定されていた。
はて、これはどの事件が先なのかと思って書記官に聞くと、「早く当事者がそろった事件から開始します」とそっけない返事。
既に和解条項もできあがって合意済の状態だったので(印刷したものも用意してあった)、書記官にその旨伝えたが、「当部では、和解も早いもの順になっていますので」とあっさり。結局、相手方の先生が遅れて、私たちの和解事件が開始されたのは、午後4時50分。事件が終了したのは、55分。裁判官が、和解条項を見た上で、「これでいいですね。」と言っただけのことだった。

独り言:「遅刻した者に制裁を加えるような権限が裁判所にあるのだろうか、しかも、相手方の遅刻に対して何故に反対当事者が責任を問われなければならないのだろうか。一般市民の本人訴訟の場合、休暇をとったり早退したりして時間を都合して出頭している者もいるだろう。私のように遠方から来ている者にとって、帰宅時間が遅くなるのはつらいのだが、そのことをわかっているのだろうか。結局、裁判所は人が来てくれるところであって、裁判官は、座って待っているだけの人だから(弁護士は出歩くことが仕事であるが)、来庁者のことは考える余裕もないのだろうか。」

早く来たら損だ!
平成8年頃のことだが、仙台地裁本庁で午後1時10分と15分の2件の弁論期日を指定してもらったことがある。たまたま、そのときだけだったのかも知れないが(したがって、誤解があるかも知れないのだが)、私が12時45分に法廷の前に着いて、開廷を待っていたところ、午後1時を遇ぎても、法廷の扉には鍵がかかったままで中に入れない。当然ながら、出頭カードも書けない。5分になっても、まだ法廷は閉まったまま。いらいらして、私が法廷前の廊下を見回すと、私だけでなく出頭してきた当事者や代理人の弁護士が10人以上待たされている。廊下は10人ぐらいは座れる椅子が配置されているが、当然みんなが座れるわけはないから、ほとんどの人は法廷の前で立ちながら待っているわけである(※3)。
結局、扉が開いたのは、10分を過ぎた頃である。
私は、「別件の15分指定の事件に遅れてしまう、もっと早く法廷を開けてもらわないと困る」旨、廷吏さんに抗議したのだが、その廷吏さんは、ご丁寧にも私の順番を一番最後に回してくれるというご返礼。
私が、一番早くに来ていたのだが、10分を経過してからでないと中に入れないのだから、出頭した順番の確認はできないということだろう。結局このやり方だと、順番を決めるのは廷吏さんの気分次第ということになる(なお、相手方代理人の顔がわからない、他弁護士会の弁護士にとって、自分の相手方がいつ来て、それが何番目かはわからない。まして、本人訴訟の場合はなおさらである。)

追 記:先日(平成9年9月24日)、仙台地裁本庁に行ったら、廷吏さんは、相変わらず、午後1時を過ぎても、法廷に来ていなかった(1時10分きっかりに書記官と一緒に入ってきた。)但し、法廷の鍵は開いていた。廊下には机が置かれて、その机に出頭カードが並べられており、出頭者が自分で記入して、法廷内のカード入れの箱に入れるようになっていた。セルフサービスではあるが、多少改善されたようである。ただ、このカード入箱は、廷吏席の側に置いてあり(つまり、傍聴席と法廷を仕切る柵の内側にあるわけである。しかも、京都や大阪とは違い、廷吏席は裁判官席の横、つまり、法廷の最も奥の方にある。)、一般市民にはわからないと思う。実際、私もカードに記入さえすればよいだろうと思っていて(これは言い訳だが、ほとんどの裁判所がそうなっている。)この仕組みがわからず、結局、また、一番最後にされてしまった。なお、法廷の鍵は開いているのだから、警備の都合で、改訂時間を制限しているのではなかったことが確認された。また、出頭カードは、廊下に置かれたままで、誰も見張っていないので、誰かが持ち去っても分からないし、仮にそうなった場合は相当混乱すると思う。警備上もきわめて問題がある扱いである(例えば、有名人が関わった事件の場合、そのようなことが起こらないとは限らないだろう)。

独り言:「このような扱いをされても、弁護士なら、まだ対処の仕様があろう(但し、京都弁護士会なら、大きな問題となるだろうが)。しかしながら、本人訴訟や証人出廷などで、裁判所に初めて訪れたような、一般市民にとって、これほど不親切な対応はないだろう。『本当に、ここで間違いないのだろうか。場所が違うのではないか」などと思った人が、大勢いるだろう。出頭してきた人の中には、仕事を1日休んで来ている人もいるだろうが、かわいそうなことである。」

——————————————————————————–

※1
遠方から出張してくる弁護士だとわかると、通常の裁判所は、午前は無理ですねとか、午後1時で間に合いますかとか、配慮してくれるので、うれしい。開廷日についても、事件配属前に、事件係にお願いすれば、月曜日とか金曜日とか、都合のよい曜日に配属してくれる場合もある(但し、出張を利用した旅行のためなどという理由はよくない。あくまでも、仕事の都合でお願いするのが、最低限のマナーである。少なくとも、私は、そのように心がけている)。

※2
関西地区以外では(確か九州地区もそうだと思うが)、弁論期日や和解期日の際、出頭カードを記入する扱いとなっていることが多い。誰が出頭してきているのかを確認するのだろうが、私は、廷吏さんと口頭で話をして、確認する関西や九州の裁判所のやり方が好きである。世間話もできて楽しい。

※3
一般的には、廷吏さんは、開廷時間の10分前には法廷に入っていて、当事者や代理人の確認をしたり、本人訴訟の場合など、親切に裁判の流れなどを教えていたりすることが多い。やさしい廷吏さんに会うと、心が和む。また、廷吏さんと、本人や証人とのやり取りを見ていると、その裁判所が、どういう態度で市民に接しているかがよくわかる。なお、京都や大阪は、全国的に見ても、廷吏さんの態度は、市民にやさしいように思う。出頭カード方式ではないことが原因かも知れない。カードがないと、本人確認をするときに、出頭者と必ず会話をせねばならないからである。なお、出頭カード方式を採用している裁判所でも、廷吏さんは、開廷10分前には法廷に入っていて、当日提出された準備書面や証拠申出書などのチェックをしているのが普通である(東京地裁でも、確かそうである)。出頭した順番なども、人間の眼で確認しているし、初めてその裁判所を訪れた者が、法廷のことについて、廷吏さんに相談することもできるようになっている。私が知る限りでは、開廷時間前に廷吏さんが法廷にいないのは、仙台地裁本庁だけのように思う。

——————————————————————————–

(注) 本稿は、すでに、京都弁護士会会報(98年1月号)に掲載されたものです。また、京都弁護士会ホームページに於いても再掲されています。原稿に書かれた内容は、白浜が経験した、当時のものであるということを、お断りいたします。

著 白浜徹朗

2017/12/26

裁判所放浪記その2

地方の悲哀編

私が放浪記を会報に載せて欲しい訳
裁判所は「慣行」や「先例」を重視する世界のようだ。しかし、この「慣行」や「先例」は、ややもすると一般社会の常識からずれていることがある。そして、そのことは内部の人間にはわからないことも多い。弁護士は、在野法曹として、この妙な「慣行」を正す社会的使命があると思うのだが、その地方の弁護士会に所属していない弁護士には、問題を指摘する手段が事実上与えられていない。その点、弁護士会報は、各地の弁護士会に送られるから、これを書くことで、「慣行」改善の何かのきっかけになるやも知れないと思って、期待するところがある (※1)。
さて、前回は、東京や仙台などの権威ある裁判所での体験を書いたが、地方(但し、大都市に対する意味での)の事件でも、困ったり、苦労したりすることがある。以下は、その体験談の一部である(前回お断りしたように、この話も、あくまでも主観的なものである。)。

セルフサービスです(来たれよ、さらば与えられん その1)
再び仙台地裁でのお話。とは言っても、本庁ではなく、支部である。
仙台地裁のとある支部の事件で記録謄写をするよう事務局に指示したところ、事務員から「謄写はできないそうです。」とのこと。びっくりして詳しくきいてみると、「支部では、記録謄写をするところがないから、弁護士自ら謄写に来るか、事務員を派遣するか、あるいは、知り合いの弁護士に依頼して謄写してもらうかして欲しい。謄本申請をするのであれば、謄本としてなら交付する。」 と言われたというのである(※2)。これでは、私か事務員のいずれかが、飛行機に乗って東北まで出張して謄写をせねばならなくなる。費用や時間を考えれば、まさにとんでもない取り扱いである(なお、私が謄写しようとしたものは、謄本の交付ができないものであった。)。結局、次回期日に、早起きして開廷一時間前に出頭し、私自らコピーさせていただいた。なお、仙台弁護士会に、この問題を検討していただくようお願いしたところ、担当の庶務委員会委員長ご自身も、支部事件の記録謄写をどうやっているのかご存じないとのことであった。

独り言・・・「知り合いの弁護士などもいるはずがないし、当該事件に関係のない弁護士に記録謄写を依頼することは、弁護士の守秘義務やプライバシー保護の関係でも大いに問題がある。ただ、弁護士ならまだ対処の方法があるが、(もっとも、弁護士としても、支部まで事務員を派遣しているとすると、その費用をクライアントに負担させているのだろうが、仮にそのような扱いがなされているとすれば、疑問が残る。)、本人訴訟など一般市民が謄写をしようとした場合のことを考えると、果たしてそのままでよいのか、大いに疑問である。民事保全法や新しい民事訴訟法が、遠方から裁判所を利用する者の便宜を図っていることと(管轄区域外供託の許可や書面による準備手続など)、この謄写の扱いとは矛盾しているようにも思われる。」

支部とはなっていますが、人はいません。
これも私が独立開業する前の話。旭川地裁留萌支部に動産仮差押の執行を申し立てたところ、本庁の執行官から電話があった。「せっかく申し立てていただいたのですが、留萌支部には、常駐の執行官がいません。二週間おきに留萌の事件は処理しているのですが、今度ゆくときには、先生の仮差押決定は期間経過で失効してしまいますので、できれば取り下げてもらって、今度、私がゆくときに執行できるよう、出し直してもらえませんか。」とのこと(※3)。「そんなもん聞いてないよ!」と言いたいところだったが、泣く子と執行官には逆らえないので、取り下げて再度申し立てし直した。ちょっと日和見かも知れないが、動産仮差押は執行官と打ち合わせをしてからやるべしという鉄則を忘れていたからやむを得ないと思った次第である。

独り言・・・「執行官が常駐していないということは、結局は、内部の事務処理上の問題であって、外部からはわからないことである。このような内部処理をしているのなら、少なくとも弁護士便覧ぐらいには指摘があってもおかしくない。いずれにしても、支部に人材を常駐させることができないという裁判所の内情と過疎問題がリンクした難しい問題のように思う。」

最寄りの駅はありません
鹿児島地裁知覧支部では、最寄りの駅がなく、鹿児島市内からバスでゆくしか交通手段がない(※4)。それも一時間程ゆられてゆくことになる。知覧への移送申立があったとき、この不便さを知って、相手方弁護士と協議し、京都在住の証人を京都で調べてから移送することで話をつけたところ(鹿児島の弁護士にとってもあまりゆきたくない支部のようであった。)、裁判所が、これを無視して移送決定をしてしまったことがあった。このときは、大いに怒って裁判官に抗議した記憶がある(書記官にはこの合意を伝えてあったのだが、裁判官には伝わっていなかったとのことだった。)。でも、知覧に実際にいってみると、ちょっとした高原にあって、隠れた観光名所でもあり、なかなかよいところではあった。
また、確かもう廃止されたと思うのだが、岡山の美作簡裁にいったときは、中国自動車道を高速バスにゆられていった記憶がある。最寄りの駅はあるのだが、バスを使った方が便利だし速かったのである。この簡裁は、法廷の真ん中にだるまストーブがおいてあって(確か、法廷の床は土間に近いものだったような気がする)、ほのぼのとした雰囲気があった。
ついでだが、先日、新潟地裁高田支部への移送申立があり、調べてみたところ、富山から特急で一時間以上乗って、更に急行に乗り換えて三〇分以上かかるということがわかり(上越や長野新幹線を使っても、これより早く着くことはできない場所である)、京都から最も遠い裁判所の一つであることが判明した。幸い、相手方に代理人がついており、しかも、富山の弁護士だったので、早々に取り下げて管轄合意をしてもらって、再度富山地裁に提訴し直した。新民訴で採用された「合意による移送」の制度に大いに期待するエピソードの一つである。

郵送は受けつけません(来たれよ、さらば与えられん その2)
今回のテーマとは離れるのだが、東京地裁のお話を補足したい。
東京地裁では、保全手続に弁護士の面談を要求している。窓際にずらりと並んだ保全部の裁判官席の前にはこれまたずらりと椅子が置いてあり、この椅子に座って、(裁判官の机を境にして)弁護士が面談することになっている。実際にいってみると、心なしか、検察官修習時代の取調を思い出す気分がした。このような弁護士面談を行っているのには、非弁防止の意味があるとのことらしいが、どれだけの効果があるのかは、疑わしいように思う。ただ、まあ、形式的ではあるが、非弁防止という点ではこの取扱には一定納得できる側面もあるが、理解しがたいのは、供託書の取扱である。管轄区域外の供託という利用者の便宜を図った制度があり、法務局も、この趣旨を尊重して許可書がなくても供託を認めてくれる取扱となっているのだが、東京地裁は、この供託書を裁判所まで持参せよというのである。これでは、保全手続の際には、東京に二度も出向かなくてはならないこととなり、事務所所在地で供託を認めた趣旨が完全に没却されてしまう。東京地裁の言い分では、供託書は金銭と同じだし、紛失したりした場合に責任が持てないなどというのだが、それは、内部の事務処理上の都合に過ぎない。実際、このような取扱は、東京地裁やその影響下にある裁判所で行われているだけで、ほとんどの裁判所は郵送を認めている。なお、東京や大阪、横浜などの裁判所を除けば、弁護士面談は必ずしも要求されないようになっているのが普通である。つまり、東京の弁護士は、地方まで出張しなくても保全決定を得られるのだが、地方の弁護士が東京で保全決定を得ようとすると、二度も東京にゆかねばならなくなる。民事保全法や新民事訴訟法が遠方の利用者に配慮しているのは、東京などの都市部に居住している者が地方の裁判所を利用する場合だけへの配慮だけではないと思うのだが、いかがだろう。いずれにしても、この問題は、地方に居住する者の特殊な問題に過ぎないから、東京での一審三者協議(裁判所、検察庁、弁護士会)の問題とならない。この京都の地で遠吠えを挙げるしか方法がないように思うのである。

——————————————————————————–

※1
出張で初めて訪れる裁判所では、弁護士でも、その地方独特の慣行に戸惑うことがある。ただ、裁判所に不慣れという点では、一般市民と似た感覚なのかも知れない。このように考えると、私が京都以外の裁判所に対して抱いた疑問は、一般市民の感覚に多少近いものがあるのかもしれない。

※2
このような扱いは、仙台高裁管内では一般的なようである。山形地裁鶴岡支部でも郵送による謄写依頼はできないとのことである。京都の場合も、支部事件は協同組合では謄写できない扱いとなっているが、実際には書記官さんが謄写してくれているらしい。やはり関西の裁判所は東北の裁判所よりやさしいということだろうか。
なお、佐賀県弁護士会では、謄写担当者が支部に出張して謄写しているとのこと。弁護士会の規模(確か三〇名程だと思うが)から考えるとすごいことである。感心した。福岡でも、支部を掛け持ちして謄写している謄写官がいるとのこと。また、書記官さんが謄写してくれることもあるらしい。この取扱に関しては、九州の法曹関係者の方が、関西の関係者よりも利用者にやさしい取扱をしているように思える。

※3
支部に裁判官が常駐していないところは多く、そのことはたいていの弁護士は知っていると思うが、盲点は執行官である。過疎地域では、執行場所まで遠いことも多いわりに、事件数は少ないから、執行官は大変なのである。大津地裁でも、執行官は、湖東地区と湖西地区を分けて、交代で処理していると聞いた。

※4
裁判所は、お城のそばにあることが多い。広島地裁は鯉城のそば、熊本地裁も熊本城のそば、彦根支部は彦根城のそばといった具合である。そして、だいたいは、最寄りの駅はJRの駅ということになるが、福岡地裁柳川支部は西鉄の駅の方が近いなど例外もある。なお、ついでだが、支部を含めて、裁判所には同じ名前のところはないと思うので、暇な人は確認してみてほしい(JRの駅や市町村の市の名前も同一のものはないらしい)。

——————————————————————————–

(注) 本稿は、すでに、京都弁護士会会報(98年1月号)に掲載されたものです。また、京都弁護士会ホームページに於いても再掲されています。原稿に書かれた内容は、白浜が経験した、当時のものであるということを、お断りいたします。

著 白浜徹朗