2024/01/05
2024 初春号 vol.20 白浜法律事務所報
誤審
弁護士 白浜徹朗
長い間弁護士をしていると、どうしても納得できない裁判というものに関わることがあります。刑事事件では、えん罪というものが話題になったりしますが、民事事件でも明らかにおかしな判決というものはあります。明らかな証拠を積み重ねて丁寧な主張立証活動をしても、間違った判決を覆すことは難しいと実感することが多いのです。このため、やむなく和解をお勧めするようなこともあったりします。特に国選の刑事事件などは、弁護士には証拠収集のための費用もないこともあって、かなりの誤審があるように、経験上感じています。神様が判断するわけではなく、人間が裁くわけなので、誤審を完全に防ぐことは困難です。ただ、誤審を防ぐための改善の努力をしなければ、司法の信頼は失われることになります。
今、日弁連が取り組んでいることとして、再審法改正問題があります。間違った判決で長期間拘束されたような事例は多々あるものの、再審の扉がなかなか開かないというのが実態となっているので、これを制度的に改善しようとしているわけです。
また刑事事件では、検察官は、公費で活動している上に、警察という大きな組織体が証拠収集に協力してくれるため、被告人とされた方を助ける弁護士が事実を争うことには困難を伴います。それでも、科学的鑑定などによって、えん罪を防ぐことができるのではないかということで、鑑定費用や弁護技術の支援のための財団ができています。先端的弁護によるえん罪防止プロジェクトです(https://sentan-bengo.jp/)。
私は理事長として関わっていますが、おかげさまで、いくつか成果もでています。弁護士を支援する財団ですが、まだまだ周知できていない感がありますので、ここでもご紹介するような次第です。
火事息子
弁護士 拝野厚志
1.古典落語の人情噺に「火事息子」があります。私はこの噺が大好きです。あら筋は、以下のとおりです。
2.昔、江戸の街の大店に火事の好きな子供がおりました。この子が長じて火消しになりたいと言い出し、父親は大店の跡を次いでほしいため、江戸市中の火消しの親方に手を回し、息子が来ても取り合わないようにしておりました。しかし、息子は諦めきれず、家を飛び出し親子の縁を切って、臥煙(がえん)の仲間入りをします。
臥煙も火消しを生業としておりますが、江戸市中の火消しと異なり、アウトローの集まりで町の人間からはたいそう嫌われておりました。
数年たったある日、江戸の町に火事が起こり、父親の大店にも火が及ぶ恐れが出てまいりました。父親は番頭に対処を指示します。慣れない番頭が屋根に登り、おっかなびっくり対応しておりましたところ、一人の派手な倶利伽羅紋の臥煙が屋根から屋根を飛び越えて大店の屋根にやってきて、番頭を後ろから支え、必要な対処を終わらせました。
3.父親が助けていただいた方にお礼を言わねばならないと、臥煙の顔を見て驚きます。臥煙は家を飛び出し勘当した息子でした。
父親は、憎まれ口をあれこれと浴びせます。その騒ぎを聞いた母親も家から出てきて、息子を認めます。母親は、変わり果てた息子であっても、ただただ愛おしく、父親に服をやってほしいと頼みます。
「そんなやつにやるくれぇだったら、捨てたほうがマシなんだ」「捨てた方がって。捨てるくらいだったらやってくださいよ」「解らねえな。小遣いでもつけて捨ててごらんよ。拾ってくやつがいるだから」「どんどん捨てます。箪笥ごと捨てるから」「お小遣いはどれくらい捨てまししょうか。二、三百両捨てましょうか。」「そんなに捨てなくてもいい。ちょくちょく捨てれば、またちょくちょく拾いに来るじゃねえかよ」。父母の愛情たっぷりのやり取りが続いて、落ちとなります。
4.この噺で好きなところは、やはり終盤の再会の場面で、子は子で父母のことを思い、父親・母親もあくまで息子を見捨てず、それぞれのあり方で息子に変わらぬ愛情を注ぐところです。子供が何をしていようと二人にとっては大事な息子であり、父親は意地を張りながら、母親はその気持ちに素直に、二人とも変わらぬ愛情を注いでいます。母親が何の拘りもなく自分の気持ちに素直なのも、現代と変わりません。
このような江戸の頃から変わらぬ人情に触れると、困っている方の心に小さくとも暖かな灯りを灯したいと思って、弁護士を目指した気持ちを思い出すのです。志ん朝師匠が飽きさせることなく最後まで聴かせてかせてくれますので、お時間のあるときにCD等で是非お聴きください。
事業承継・引継ぎ支援センターでの職務
弁護士 青野理俊
私は、これまでも事業承継法務について研鑽を積んでまいりましたが、令和5年4月より京都府事業承継・引継ぎ支援センターの統括責任者補佐(サブマネージャー)に就任し、現在、週の半分は同センターにて執務しております。
事業承継の類型としては①親族内承継、②従業員承継、③M&Aの3つに分類されますが、同センターはこの3つのいずれも取り扱う公的な相談機関です。また、相談のみならず支援可能と判断される場合、①や②については事業承継計画書の策定支援に、③については引き合わせ支援(相対する企業を「反対ニーズ」と呼んでいます)に進み、個社支援を行います。
当職はこれまで、法律の専門家として主に法務面で関わることが殆どでしたが、同センターの執務では、ヒアリングや各種財務諸表の読込みを通じて相談者の事業内容を財務面・事業面で深く分析することから始まります。事業承継はその文字どおり「事業」を承継することですので、その支援のためには事業内容を理解することが不可欠です。同センターでの執務を通じ、①や②の組織内承継における様々な支援施策のほか、③のいわゆるM&Aにおける支援業務のノウハウを得るのみならず、相談者の事業内容を理解する上で必要不可欠な財務分析・事業分析の経験を多数積むことができています。
現在、週の半分を同センターで執務させていただいており、弁護士業務に避ける時間が限られているため、ご迷惑をお掛けしている顧問先・関与先様もおられるかと思いますが、同センターでの執務は確実に皆様へのリーガルサービスを質的に向上させるものであると確信しております。
事業承継に関するご相談を含め、事業に関わることは何でもお気軽にご相談いただけると幸いです。
証拠収集のテクニック
弁護士 大杉光城
昨年も大変お世話になりました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
今回は、弁護士の証拠の収集のテクニックについて少し書いてみたいと思います。
「裁判では証拠が重要」ということは聞いた事があるかと思います。では、どうやって証拠を収集すればよいのでしょうか。スマートフォンのカメラ、ドライブレコーダー、ICレコーダーなどで取得した画像、動画、音声などが重要な証拠になるのは、すぐにイメージできると思います。それらで、例えば、怪我の状態、交通事故の状況、会話の内容などを記録しておけば、裁判でも重要な証拠になります。ポイントは、その記録した日時を併せて記録しておくことでしょうか(基本的には、機器の日時を正確に設定しておけば、電子データのプロパティ等で日時は確認できると思います。)。もっとも、写真撮影等は、場合によっては相手方のプライバシーの侵害等にもなり得ますので、心配であれば弁護士にご相談下さい。
そのほかにも、例えば、相続案件で被相続人の健康状態が問題となるのであれば、病院のカルテや介護施設の介護記録等が重要になってきます。これらは病院等に開示を求めれば出してもらえることが多いと思います。また、不動産事件では、関係する契約書のほか、法務局で誰でも取得できる不動産登記簿や公図等の情報が基本となりますが、国土地理院のホームページで閲覧できる過去の地図や空中写真等も活用することができます。
以上は、弁護士でなくても収集可能ですが、弁護士が職務上必要であれば、対立する相手方の住民票の記載や戸籍類を調べることができ、相手方の住所や相続関係も明らかにすることができます。そして、事件処理に必要であれば、「弁護士会照会」という制度も利用できます。この制度によれば、例えば、相手方の携帯電話の番号から相手方の氏名や住所を調べたり、交通事故で警察が保有する事故の記録を調べたり、さらには、相手方の預金口座の内容を調べたり(原則として勝訴判決等を取得している必要があります。)することができます。
私は、弁護士会の業務で弁護士会照会制度の運用に長年関わってきたこともあり、証拠の収集という点では皆様のお役に立てることが多いだろうと思います。「証拠がない」と悩まれている方は、是非一度、私の方までお気軽にご相談下さい。
以 上
所有者不明土地等の管理
弁護士 津田一史
昨年春から改正民法が施行され、調査を尽くしても所有者やその所在を知ることができない「所有者不明土地・建物」や、所有者による管理が不適当であることによって、他人の権利・法的利益が侵害され又はそのおそれがある「管理不全状態にある土地・建物」について、個々の土地・建物に特化した財産管理制度が新たに設けられました。具体的には、利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができるようになりました。
所有者不明土地等や、管理不全状態にある土地等は、公共事業や民間取引を阻害するだけでなく、近隣に悪影響を発生させるなどして問題となっています。これまでは、管理に適した財産管理制度がなく、管理が非効率になりがちでした。しかしながら、昨年春から、所有者不明土地等に関しては、管理人の選任後、管理人が裁判所の許可を得て、所有者不明土地の売却等をすることがあり得るようになりました。これによって、公共事業や民間取引が活性化することも期待されています。
もっとも、所有者による管理が不適当であることによる管理不全状態にある土地等については、本来管理する所有者が明らかなわけですから、管理人による売却等も叶わないと想定されます。ひび割れ・破損が生じている擁壁の補修工事や、ゴミの撤去・害虫の駆除も、選任された管理人にお願いできるようになりましたが、これらに要する費用に関しては、管理人の選任を申し立てる利害関係人が、あらかじめ相応の管理費用を負担する必要があり、制度を利用するに際して悩ましいところです。なお、管理人には、事案に応じて、弁護士等のふさわしい者が、地方裁判所によって、個別に選任されますので、申し立てる際や管理を進めるうちに不足が生じる際等に、選任を申し立てる利害関係人が相応の費用を裁判所に納める必要があります。
そうとはいえ、今後、不動産登記簿等を参照しても所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない所有者不明土地等の増加が予想され、個々の土地・建物の管理に特化したルールの見直しで設けられた制度は、手続選択として利用を検討することがのぞましいと思えます。トラブルの適切な解決手段を選ぶにあたって、各種の法的手続に精通した弊事務所に、お気軽にご相談いただければと存じます。
これだけは知っておきたい法律知識
弁護士 中川由宇
もっと早くこのことを知っていたら。…そんな思いをされることがないよう、法的知識を多くの方に広めていくのも、私たち法律家の役割です。
一般の方だけでなく、隣接職種(行政書士や金融機関の職員)の方に、講師としてお話をすることがあります。昨年は、保険会社の従業員の方向けに、私を含め弁護士数名でお話をしましたので、その中から、相続・遺言や交通事故に関し、皆様に知っておいていただきたい知識を、いくつかピックアップしてお伝えします。
【相続・遺言】
①認知症になる前に遺言をお作りください。要件不備で無効になったり、偽造を疑われたりすることのないよう、公正証書にするか、法務局の遺言保管制度をご利用ください。
②不動産の分け方を巡り相続人同士が長年争うことがあります。そのような事態を避けるため、不動産のある方は、遺言をご作成された方がよい場合があります。
③お子様のいらっしゃらないご夫婦で、相続人となる兄弟姉妹(または甥姪)がいらっしゃる場合は、残された配偶者が、血縁関係のない義理の兄弟姉妹等と交渉を行わなければならない事態を避けるため、遺言をご作成いただく必要性が高いと言えます。兄弟姉妹・甥姪には遺留分はないため、配偶者に全財産を相続させる遺言を作成すれば、配偶者は兄弟姉妹等との交渉を避けられます。
④遺言で公益法人等に遺産の大部分を寄付(遺贈)したいというとき、不動産は金銭に換えないと寄付を受け付けてもらえないことが多いため、遺言執行者が不動産を売却した上で売却金を寄付する清算型遺贈の遺言を作成することがあります。売却の際に発生する税のことで法定相続人に迷惑がかからないよう調整が必要となるなど、専門的知識が要りますので、この分野に通じている専門家にご相談ください。
【交通事故】
事故後しばらく経って症状が出ることがあります。十分な補償を受けるためには、事故直後にはさほど痛みを感じなくても、できるだけ早く整形外科を受診し、MRI等の必要な検査を受け、検査で異常が見つからなくても痛みや症状を具体的かつ正確に医師に伝え、必要な治療を継続することが肝要です。
事故直後から弁護士がご助言することで、十分な補償を得られる可能性が高まります。弁護士費用特約が使える場合、相談料や報酬を気にせず、弁護士へのご相談ご依頼ができますし、この特約を使っても保険の等級は下がりませんので、お早めにご相談ください。
この他にも、いざというときに役立つ情報を交通事故サイト(https://shirahama-lo.jp/kotsujiko/)のコラムに記載しています。
「白浜 交通事故 コラム」で検索ください。
緊急事態の後始末
事務長 田村彰吾
コロナ禍による厳戒態勢が和らぎ、ここ京都の観光地にも多くの旅行者が来訪し、徐々に日常へシフトしていく状況になってきたようです。まだまだ未知の感染症で有りながらも折り合いを付けて、警戒をすべき状況、緩和すべき状況を各々で見極めて、それに見合った対応をしていく時期なのかも知れません。
この市況回復期に、業績を回復する企業、未だ回復には遠い企業、様々だと思います。業種によっても区々で、コロナ禍前から見ればまだ1割~2割は売上が戻らない企業、業界も多いと思います。
一時、9割以上の売上を失ったような厳戒期から見れば、わずかな売上減のようにも感じますが、売上が常時2割も戻らないとなると、ほとんどの企業が利益を失います。況してや、コロナ関連融資を受けた企業は、その返済が始まっているところも多く、資金繰りの悪化が容易に想像できます。実際、京都地方裁判所での破産申立件数は大幅に増えていると聞き及びます。
弊所で担当する破産申立や管財業務の経験則ではありますが、資金繰りに窮する企業は、得てして従業員に無理を求めてしまいがちであり、従業員側もまた、緊急事態であるとして、無理を受け入れてしまうこともあると思います。無理が続けば、お互いに冷静な判断が下せなくなり、心身のバランスを崩してしまうこともあるでしょう。
頑張りすぎたが故に倒産する費用もない、なんてことも起こりえてしまいます。そのような事態に陥らないために、事業を見直す必要があることも受け入れなければなりません。
倒産、破産だけが選択肢ではありません。どうにもならない事態に陥る前にこそ、寝食を忘れ育ててきた事業、苦楽を共にした従業員を守るためにこそ、専門家への相談が必要です。経営面で不安に思うところがあるのであれば、早めに弊所弁護士に相談されることをお勧めします。今ある制度の中で、どうすれば事業を維持し、従業員を守れるのか。救いの手を差し伸べてくれる政策は期待できなくとも、生き残る方法を考えることが出来るかもしれません。