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弁護士法人 白浜法律事務所

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白浜の思いつき
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2017/12/26

競売物件購入のチェックポイント

最近のデフレ経済は、政策として実施された不動産価格の下落に主な原因があります。バブル経済を意図的に急崩壊させた結果として、大半の企業のバランスシートが厳しくなり、設備投資なども消極的にならざるを得なくなり、不況が長期化してしまいました。この結果、担保割れ物件が急増し、不況の長期化が追い打ちとなって、返済に窮した債務者が、競売によって不動産を手放すということが多くなっているわけです。バブル経済到来前と比較しても、競売事件数は飛躍的に増加しており、競売は市民にとって身近なものとなってきているようです(但し、これは、社会自身が病んでいるということであって、あまり好ましい状況ではありません。)。でも、いくら身近になったとはいえ、競売物件には素人が手をだしてこなかったというのは事実です。今でもそうなのでしょうか。私たちが、競売物件を購入するにあたっては、どんなことを注意しなければならないのでしょうか。以下、簡単に、チェックポイントをまとめてみました。

1.競売の流れ
① どんな物件が競売となるのか
競売をわかりやすく言えば、お金を支払わない人に対して、国が強制的に物を売却してその代金をもって、債務の弁済に充てる制度であると言えます。
競売には、大まかに言って3種類のものがあります。一つは、抵当権などの担保権が設定された物について担保権に基づいて行われる場合であり、競売事例のほとんどはこれです。もう一つは、判決などお金を支払えとの裁判に従わない人に対して行われる場合ですが、これは一般債権に基づく差押と言われます。担保権が設定されている場合、剰余がないと配当を受けることができないので(担保債権額を上回るほどの不動産価格がなければ、配当にはなりません。)、最近のように担保割れ物件がほとんどという状況の下では、競落ということまで行き着く事例は少なくなっています。もう一つは、共有物件の競売など、売主側が任意に合意して売却することができないような場合に行われる競売です。このような事例はほとんどみかけることはありません。従って、素人の方が競売を考える場合には、担保権に基づいての競売を念頭におけば足りることとなります。
このように、競売はお金を払わない人に対して行われるものですから、逆に言えば、順調にお金が支払われているような場合には、競売になることはありません。また、お金が払えなくなった人も、通常は、物を売却して返済に充てようとします。結局のところ、競売に至る事例は、担保権者との話ができないまま、任意に売却することもできずに、競売にまで行き着いてしまったという事例がほとんどということになります。事件物と言われるゆえんであり、ここに競売の難しさがあります。

② 競売に至る通常の流れ
競売・競落に至る事例のほとんどは、以下のような経緯をたどります。

  1. 支払の遅れ
  2. 金融機関からの督促
  3. 返済交渉
  4. 任意売却交渉
  5. 交渉の決裂
  6. 抵当権実行通知の発送
  7. 裁判所への競売申立
  8. 競売開始決定
  9. 裁判所による現況調査
  10. 評価額の決定
  11. 最低価格の決定
  12. 入札期日の決定と公示
  13. 入札
  14. 開札
  15. 競落許可決定

このうち、1から7までの間には、相当な期間が費やされるのが普通です。また、8に至った後にも、任意売却交渉は続けられます。開札直前に任意売却が成立することもあります。従って、15まで至る事例は、例外的な事例であるということがわかります。

③ 問題事例
競売は、債務者の意思に反して物を取り上げるという性質を有しているために、債務者側が抵抗することがよくあります。このため、占有屋などの第三者の介入とか、場合によっては、自殺や放火など不動産の棄損行為などもありますし、競落しても、任意に退去しないで、最終的に強制執行をせねばならなくなる事例も少なくありません。逆に、債権者へのいやがらせや他人名義での競落をねらって建物の価値を下げようとして、内容虚偽の賃貸借契約書を作成するということもあります。競売への参加のポイントは、これらのリスクを正しく認識しておくことに尽きるということになります。

2.競売物件チェックのポイント
① 情報の入手
まずは、どのような物件があるのか、情報を入手する作業から始めることになります。
最近では、インターネットで情報が開示されています。
公式なサイトは、BIT(http://bit.sikkou.jp/)ですが、一部の裁判所にしか導入できていません。京都は対象外となっています。この他にも、私的なサイトがあります。例えば、at home web(http://www.athome.co.jp/)などです。
これらの情報から、興味のある物件を探すことがまず第一歩ということになります。

3.落とし穴
① 情報不足
競売は、任意売却の場合と異なり、基本的には、物件を内覧できないために、詳細が確認できないことが最大のネックです(⇔任意売却の場合は、業者が所有者と詳細について確認し、重要事項として説明が行われる。)。この点については、新しい制度ができているので、活用するべきでしょうが、実際どこまでできるのかは、まだまだ未知数です。また、内覧ができたとしても、所有者は、競売に非協力的であるということに注意を要します。
時期的にみても、他者よりも早期に情報が入手できないという点も、競売参加者の不利な点です。任意売却交渉等が行われている場合には、任意売却交渉に関わった人々よりも、情報入手の点で遅れているということは自覚しておく必要があります。要するに、なぜ競売に至ったのかを推理しておくべきだということです。また、幸運にも、一般公示前に競売情報を入手できたような場合には、登記簿謄本ぐらいは入手してチェックすることも必要でしょう。

② 裁判所評価の限界
裁判所の評価は、不動産鑑定を前提としたものですが、これは、机上の計算という側面があることは否めません。競売に参加しようとする物件については、自分の目で確かめ、正常な取引事例との比較対照がどうしても必要です。

③ 妨害の可能性
第三者が介入しているような物件は、手をつけない方が安心です。特に、テナント物件は、慎重にも慎重な対応が必要となります。家主たる債務者と店子である賃借人が通謀してることすらあり得ます。

④ 問題事例

  • 別会社が賃借しているとして、債務者側が執行停止をとってきた事例
  • 内容虚偽の賃貸借契約書を作成し裁判所に提出し、法外な敷金を要求してきた事例
  • 債務者の自殺
  • 膨大な残置物
  • 車庫を第三者名義で建物として登記

⑤ 瑕疵担保責任
通常の売買であれば、建物にシロアリがいたとか、土壌が汚染されていたとか、見た目ではわからない欠陥があった場合には、瑕疵担保責任として、売主に責任追及することが可能ですが、競売は、この点が期待できません。裁判所による現況調査に問題があった場合には、国家賠償請求が認められる場合もありますが、事例としては例外的な場合に限られています。この点でも、競売物件はリスクの大きな物件であるということが言えます。

⑥ 転ばぬ先のつえ
弁護士などの専門家(競売のことはあまり知らないという弁護士の方が多いので、競売にある程度の知識を有している弁護士が望ましい)、不動産仲介業者などに相談しながら、参加した方が無難です。また、情報を入手しようとした場合には逆に自分の情報が流れることもあるということには注意された方がよろしいでしょう。この観点からは、第三者に依頼して調査するという処理も一考に値します。

⑦ 任意売却
どうしても入手したいという物件については、任意売却による買取を試みるという方法もあります。これは、買受人が現れるまでに取下をする必要があります。つまり、開札期日までに関係者の間で話をまとめて決済を行い、なおかつ、競売を取り下げてもらう必要があります。

⑧ 私見
全くの個人的な見解ですが、競売物件は、余剰資産としてなら競売だけをねらってということでもいいかも知れませんが、自宅など一生に関わる買い物ということであれば、物件供給先の一つとしてみるぐらいの余裕をもって臨まれた方がよろしいかと思います。

著 白浜徹朗

2017/12/26

架空請求Q&A

:携帯電話に身に覚えのない料金を請求するメールが届いたのですが、どうしたらいいでしょうか。
:最近、話題となっている架空請求だと思います。怖いことはありませんから、無視してください。

:気をつけた方がいいことはありませんか。
:相手の言うとおりに返答をすると、丸め込まれたり、脅されたりして、払う必要のないお金を支払うことになることがありますから、無視することが一番です。特に危険なことは、生年月日や住所、電話番号、メールのアドレスなどを回答してしまうことです。携帯電話への架空請求は、ほとんどがあてずっぽうな請求ですが、このようなメールに不用意に回答してしまうと、悪質業者にあなたの情報が流れてしまうことになるので、注意が必要です。また、アンケートなどを仮装して、あなたから情報を引き出そうとする業者もいますから、携帯メールによるアンケートには特に注意が必要です。これは、携帯のメールだけでなく、パソコンのメールなども同様です。

:文書で架空請求が来た場合などは、どうですか。
:文書での架空請求が届いたということは、悪質な業者にあなたの住所氏名の情報が流れているということになりますから、今後も、同じような請求が届くかも知れません。一切無視することです。回答して、生年月日や電話番号などを教えることは、絶対にさけてください。

:裁判所や弁護士事務所から書類が来たような場合はどうですか。
:裁判所や弁護士事務所の名前をかたる架空請求もでてきていますから、注意が必要です。身に覚えのない請求が裁判所や弁護士事務所から届いたら、まず、電話帳などで、電話番号を確認して書類に書かれている電話番号と同じかどうか、確認してください。携帯電話の番号が記載されているものとか、該当する弁護士事務所がないというような場合には、間違いなく架空請求です。ただ、本当に裁判所に訴訟を提起するという事例もでてきているようですから、裁判所からの正式な書面ではないかと思った場合には、必ず、裁判所に問い合わせてください。後は、裁判所などの指示に従ってください。

:間違えて、住所とかを教えてしまった場合は、どうしたらいいですか。
:しつこく請求がくるようでしたら、弁護士に相談した方がいいでしょう。また、小額だから面倒だからということで支払ってしまうと、請求したら支払ってくれる人だという情報が悪質業者に流れることとなりますから、絶対に請求に応じてはいけません。

著 白浜徹朗

2017/12/26

司法試験に合格しても弁護士になれるとは限らない

欧米諸国と比較すると、日本の弁護士の数は不足しているということが、学者などから言われることがある。ただ、これにはマジックがあり、欧米には存在しない職種である税理士とか司法書士、行政書士などの法律専門職の数が弁護士数に含まれていないのである。

日本では、紛争となった場合には弁護士に相談し、日常的な業務に関するような法的処理は、司法書士や税理士に依頼して処理するという言わば棲み分けが行われているのであるが、そのような社会的実態を考慮することなく、単純な数の比較だけをもって、弁護士が不足しているという話になってしまう。そして、弁護士の数をもっと増やして、弁護士を市場原理で淘汰するべきであるなどとも言われる。特に、ロースクールなるものが登場してからは、弁護士数を増加させるべきであるという声は日に日に大きくなっているようである。ロースクールに合格すれば、そのほとんどが弁護士になれるかのような話が広く出回っていたことから、法学部の人気が過熱した時期もあったようである。この話を受けて、社会人の中にも、弁護士資格を得ようとロースクールに走った人も多いと聞いている。

しかしながら、現実はどうだろうか。実は、極めて厳しいのが現状である。現に、今年の司法修習修了者には、司法修習は終えたが就職できなかった人がかなりの数発生しているのである。

つまり、58期(平成16年春より修習)の今秋(平成17年秋)の就職者は、弁護士が911名(うち女性が204名)、裁判官が124名(女性34名)、検察官が96名(女性19名)となっているので、法曹となった人の合計は1,131名(男性874名、女性257名)ということになる。しかしながら、司法修習の最終試験である2回試験の合格者は1,158名ということなので、計算上は、27名が法曹にはならなかったということになる。ちなみに、58期は、合格留保が31名、不合格が1名なので、平成17年の秋に就職しなかった人は、60名近くになっているわけである。

つまり、せっかく難関の司法試験に合格して厳しい修習を終えた後でも就職できるとは限らないというのが、平成17年の司法修習生の現実なのである。しかも、上記の数字は、司法試験合格者1200人時代における数字である。合格者1500名の59期生の就職(平成18年秋)にはさらに困難が伴うことは必至であり、実際、弁護士の中では、59期生の採用枠が大きく増えることはないので、59期生の就職はかなり厳しいのではないかと危惧されているようである。

では、今年から新司法試験の合格者を輩出するはずのロースクールの場合どうなるのであろうか。ロースクールの第1期生は、途中で旧司法試験に合格した人もかなりいたようなので、卒業生は入学時点よりは少ないのではないかと予想されるものの、彼らが新司法試験に合格し修習を終えて実際に就職する頃にはどうなるかというと、実は、59期生や60期生の就職よりさらに厳しくなることは必至である。なぜなら、ロースクール第1期生は、最後の旧司法試験組である60期の修習生(平成19年秋就職)が1500名就職活動をするのとほぼ同時期に就職先を確保する(ロースクール第1期生は修習期間が短縮され、平成18年秋より約1年の予定で司法修習を行う。)ということになるからである。このため、ロースクールを卒業し司法修習も終えたが就職はないという人たちが大量に出現する可能性があり、これが法曹界における2007年問題と言われているのが実情なのである。法曹界以外では、2007年問題というのは、団塊の世代が大量に定年を迎えて、大卒の新人確保が厳しくなるという労働力受給のアンバランスを指しているようであるが、法曹界だけは逆の意味で使われているというのは何とも皮肉なことである。そして、この第1期生で新司法試験に合格できなかった人が、翌年も試験を目指すとなれば、第2期生以降も試験合格は厳しくなるということになる上、試験合格後も、就職できなかった新司法修習生たちと就職も競わねばならないということになるわけである。

ただ、これまでのように、試験に合格すれば就職できるというような状態が正しいかと言えばそうではないことは確かであろう。弁護士が資格さえあれば食っていけるようなことではおかしいと思う。しかし、司法試験のような過酷な試験で、しかも、若い人たちが何年も修習という修行期間を経たにも関わらず就職できない人が大量に現れるということが正しいことであるとは私には思えない。修習には国家予算も使われている。ロースクールもしかりである。無駄が許されていいはずもない。そして、このロースクールや司法修習での研修は、国民の人権に直結することであるから、もったいないなら削ればいいというものでもない。大事な予算なのである。そんな貴重な予算を費やして、法曹にならない人を育てることが正しいことであるとは思えない。医師の場合、国家試験に合格しても医者にならないというような人は大量には存在していないはずであり、法曹資格者だけは何百人もの法曹にならない有資格者が出現するというようなことでいいのだろうか。

では、弁護士事務所に就職できないのであれば、最初から独立して開業したらいいかというと、そんな弁護士を国民が望んでいるとも思えない。これまで、弁護士は、先輩弁護士の指導の下で、研鑽を積んで仕事にあたってきたのであり、そのような裏付なしに独立開業する人を増やした場合に迷惑を被るのは国民であろう。また、実際のところ、最初から独立して仕事ができるほどの弁護士に対する社会的需要はないのが現状である。もめ事に巻き込まれた人たちが弁護士に費用を支払うということは大変なことであり、弁護士には「市場」開拓という言葉はあまりピンと来ないのが現実である。本来、弁護士は儲けるための仕事ではないし、儲かる仕事でもないということは忘れられてはならない

なぜ私がこんなことを書いているかと言うと、私は、修習生の就職活動のお世話をすることが多い弁護士の一人であると思うが、身近にみていても、最近の就職活動は本当に大変だからである。そして、実際の数値としても、平成17年になって、合格者1200名時代であってさえ20名を超える就職先不明者が出現したのである。この事態がさらに300名も合格者の多い来年度以降どのように推移するかは、極めて厳しいということを私は実感している。しかるに、私には、この現状が、実際にロースクールを目指そうとしている人たちに正しく伝わっていないように思われてならない。だからこそ、実際に修習生を身近にみている弁護士から実態を知らせる必要があると考えたのである。

机の上だけで法曹人口論を唱える人たちは、この問題が若者の人生に深く関わる問題であるということを考えてみてほしいと思う。とにかく沢山合格させればいいというわけではないはずである。何年もかかって合格して喜んで研修を積んだものの、実際には就職ができない若者が大量に出現するようなことが果たしていいことなのだろうか。そのときには、他の就職の道は閉ざされているかも知れないのである。安易な合格者増員論に警鐘を鳴らす意味で、本稿にて修習生の就職実態の一面をお知らせした次第である。

著 白浜徹朗

2017/12/26

裁判所放浪記

放浪する弁護士

私は、全国各地に事件がある。おそらく日本の弁護士の中でも、最も多くの裁判所を訪れた弁護士の一人だと思う。例えば、東は釧路地裁、西は佐世保支部(長崎)、南は知覧支部(鹿児島)、北は旭川地裁といった具合である。
裁判官が転勤で頻繁に交代するせいか、裁判所はどこでも同じ雰囲気をもっている側面があるのだが、反面、その地方独特の特色が出ているところもあって、出張していて面白い。例えば、札幌で証人尋問したら、私の尋問部分まで北海道弁になっていた(そんなことはないんでないの)ということもあった。こういう弁護士が東京や大阪ではなく京都にいるというのも面白いが、長谷川先生から、貴重な経験だから京都弁護士会報に投稿したらどうだという勧めがあったので、「裁判所放浪記」という題で寄稿してみようと思った次第である。
まずは、初回ということで(好評なら、続編を寄稿する予定である。)、裁判所への批判的視点をもった出張残酷物語から始めることにする。なお、これから紹介するエピソードは、あくまでも私が体験した主観的なものであって、今現在一般的に行われている取り扱いではないかも知れないということはご承知おきいただきたい。

早く来い!
東京地裁というところは、お上意識の強い裁判所らしく、「さすが東京地裁」というエピソードが多い。独立する前の話だが、東京地裁に手形訴訟を提起して、事務員が弁論期日を決めてもらおうとしたところ、書記官から、「弁論期日は午前10時しかないので、午前10時に指定する」と言われたとのことである。まだ「のぞみ」も走っていない時代である。私はびっくりして、地裁に電話をかけて、「午後にならないのか」と交渉してみた。書記官からは、「東京地裁手形部では午後は証人調べをすることになっているから、午後には弁論はしていない。との返答。「それでは、地方の弁護士は、宿泊せねばならないのではないか」と猛烈に抗議したのだが、開き入れてもらえなかった(※1)。

独り言:「東京以外に住んでいる人間が東京で訴訟を提起する場合には、東京の弁護士に依頼せよとのことなのだろうか。やはり前日から泊まって東京見物でもしているのだろうか。」

早い者勝ち!
これも独立する前の話だが、東京地裁で和解期日を午後4時に指定されて、時間前について出頭カードに署名し(※2)、ついでに他のカードを見回したところ、午後4時には3件の和解事件が指定されていた。
はて、これはどの事件が先なのかと思って書記官に聞くと、「早く当事者がそろった事件から開始します」とそっけない返事。
既に和解条項もできあがって合意済の状態だったので(印刷したものも用意してあった)、書記官にその旨伝えたが、「当部では、和解も早いもの順になっていますので」とあっさり。結局、相手方の先生が遅れて、私たちの和解事件が開始されたのは、午後4時50分。事件が終了したのは、55分。裁判官が、和解条項を見た上で、「これでいいですね。」と言っただけのことだった。

独り言:「遅刻した者に制裁を加えるような権限が裁判所にあるのだろうか、しかも、相手方の遅刻に対して何故に反対当事者が責任を問われなければならないのだろうか。一般市民の本人訴訟の場合、休暇をとったり早退したりして時間を都合して出頭している者もいるだろう。私のように遠方から来ている者にとって、帰宅時間が遅くなるのはつらいのだが、そのことをわかっているのだろうか。結局、裁判所は人が来てくれるところであって、裁判官は、座って待っているだけの人だから(弁護士は出歩くことが仕事であるが)、来庁者のことは考える余裕もないのだろうか。」

早く来たら損だ!
平成8年頃のことだが、仙台地裁本庁で午後1時10分と15分の2件の弁論期日を指定してもらったことがある。たまたま、そのときだけだったのかも知れないが(したがって、誤解があるかも知れないのだが)、私が12時45分に法廷の前に着いて、開廷を待っていたところ、午後1時を遇ぎても、法廷の扉には鍵がかかったままで中に入れない。当然ながら、出頭カードも書けない。5分になっても、まだ法廷は閉まったまま。いらいらして、私が法廷前の廊下を見回すと、私だけでなく出頭してきた当事者や代理人の弁護士が10人以上待たされている。廊下は10人ぐらいは座れる椅子が配置されているが、当然みんなが座れるわけはないから、ほとんどの人は法廷の前で立ちながら待っているわけである(※3)。
結局、扉が開いたのは、10分を過ぎた頃である。
私は、「別件の15分指定の事件に遅れてしまう、もっと早く法廷を開けてもらわないと困る」旨、廷吏さんに抗議したのだが、その廷吏さんは、ご丁寧にも私の順番を一番最後に回してくれるというご返礼。
私が、一番早くに来ていたのだが、10分を経過してからでないと中に入れないのだから、出頭した順番の確認はできないということだろう。結局このやり方だと、順番を決めるのは廷吏さんの気分次第ということになる(なお、相手方代理人の顔がわからない、他弁護士会の弁護士にとって、自分の相手方がいつ来て、それが何番目かはわからない。まして、本人訴訟の場合はなおさらである。)

追 記:先日(平成9年9月24日)、仙台地裁本庁に行ったら、廷吏さんは、相変わらず、午後1時を過ぎても、法廷に来ていなかった(1時10分きっかりに書記官と一緒に入ってきた。)但し、法廷の鍵は開いていた。廊下には机が置かれて、その机に出頭カードが並べられており、出頭者が自分で記入して、法廷内のカード入れの箱に入れるようになっていた。セルフサービスではあるが、多少改善されたようである。ただ、このカード入箱は、廷吏席の側に置いてあり(つまり、傍聴席と法廷を仕切る柵の内側にあるわけである。しかも、京都や大阪とは違い、廷吏席は裁判官席の横、つまり、法廷の最も奥の方にある。)、一般市民にはわからないと思う。実際、私もカードに記入さえすればよいだろうと思っていて(これは言い訳だが、ほとんどの裁判所がそうなっている。)この仕組みがわからず、結局、また、一番最後にされてしまった。なお、法廷の鍵は開いているのだから、警備の都合で、改訂時間を制限しているのではなかったことが確認された。また、出頭カードは、廊下に置かれたままで、誰も見張っていないので、誰かが持ち去っても分からないし、仮にそうなった場合は相当混乱すると思う。警備上もきわめて問題がある扱いである(例えば、有名人が関わった事件の場合、そのようなことが起こらないとは限らないだろう)。

独り言:「このような扱いをされても、弁護士なら、まだ対処の仕様があろう(但し、京都弁護士会なら、大きな問題となるだろうが)。しかしながら、本人訴訟や証人出廷などで、裁判所に初めて訪れたような、一般市民にとって、これほど不親切な対応はないだろう。『本当に、ここで間違いないのだろうか。場所が違うのではないか」などと思った人が、大勢いるだろう。出頭してきた人の中には、仕事を1日休んで来ている人もいるだろうが、かわいそうなことである。」

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※1
遠方から出張してくる弁護士だとわかると、通常の裁判所は、午前は無理ですねとか、午後1時で間に合いますかとか、配慮してくれるので、うれしい。開廷日についても、事件配属前に、事件係にお願いすれば、月曜日とか金曜日とか、都合のよい曜日に配属してくれる場合もある(但し、出張を利用した旅行のためなどという理由はよくない。あくまでも、仕事の都合でお願いするのが、最低限のマナーである。少なくとも、私は、そのように心がけている)。

※2
関西地区以外では(確か九州地区もそうだと思うが)、弁論期日や和解期日の際、出頭カードを記入する扱いとなっていることが多い。誰が出頭してきているのかを確認するのだろうが、私は、廷吏さんと口頭で話をして、確認する関西や九州の裁判所のやり方が好きである。世間話もできて楽しい。

※3
一般的には、廷吏さんは、開廷時間の10分前には法廷に入っていて、当事者や代理人の確認をしたり、本人訴訟の場合など、親切に裁判の流れなどを教えていたりすることが多い。やさしい廷吏さんに会うと、心が和む。また、廷吏さんと、本人や証人とのやり取りを見ていると、その裁判所が、どういう態度で市民に接しているかがよくわかる。なお、京都や大阪は、全国的に見ても、廷吏さんの態度は、市民にやさしいように思う。出頭カード方式ではないことが原因かも知れない。カードがないと、本人確認をするときに、出頭者と必ず会話をせねばならないからである。なお、出頭カード方式を採用している裁判所でも、廷吏さんは、開廷10分前には法廷に入っていて、当日提出された準備書面や証拠申出書などのチェックをしているのが普通である(東京地裁でも、確かそうである)。出頭した順番なども、人間の眼で確認しているし、初めてその裁判所を訪れた者が、法廷のことについて、廷吏さんに相談することもできるようになっている。私が知る限りでは、開廷時間前に廷吏さんが法廷にいないのは、仙台地裁本庁だけのように思う。

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(注) 本稿は、すでに、京都弁護士会会報(98年1月号)に掲載されたものです。また、京都弁護士会ホームページに於いても再掲されています。原稿に書かれた内容は、白浜が経験した、当時のものであるということを、お断りいたします。

著 白浜徹朗