2011/01/17
2011/01/16
なぜ、弁護士人口の推移について分析を試みてみるのか
弁護士の人口を地域別に分析してみたのですが、なぜこんな暇人のようなことをしているのかと思っている方もおられるかも知れませんので、私が何を考えてこんな分析をしているかということをお話ししておくことにします。
すなわち、平成14年3月19日の司法制度改革推進計画の閣議決定が法曹人口の増加を打ち出したわけですが、そこでは、単純に人口を増やすとされていたのではなく、司法の人的基盤の充実が前提とされていて、各種の制度改革の進展や社会の法的需要を踏まえて実施してゆくことになっていたわけです。また、そこで言われていたのは法曹人口の増加であって、弁護士だけの急増ということではなかったのです。弁護士だけが増えているという現状は、閣議決定に反しているということになります。この視点からしても、弁護士人口がいかに急増しているかということを分析することは意味があります。
ところで、この「社会の法的需要」という観点からは、弁護士の就職難という現象が生じていることからしても、これだけの弁護士激増を行うだけの弁護士への社会的需要はなかったということがわかってきています。そして、そのことをまず調査して社会に公表し、政策提言を行うべきだったのは、日弁連だったと思いますが、日弁連のこれまでの執行部ではこの影響調査を丁寧に行えていなかったのではないかと私は思うのです。ですから、個人的な調査分析を行って、皆さんの参考にしていただければと思っているわけです。
周囲の同業者と話してみた私の印象ですが、弁護士の大多数の感想は、最近、弁護士が増えたなということぐらいだろうと思います。自分の単位会が他の単位会と比較して、その増え方がどうなのかということをわかっている人はほとんどいないと思います。
他の地域と比較して、弁護士があまり増えていないところでは、弁護士急増の影響があまり実感できないということになります。これは、法曹人口政策会議での発言などで実感できることがあります。
他方で、急増したところでは、その影響が強くでてきて、増加の速度が急激に低下するという現象が生じているように私には思えます。この増加速度の急落というのが大事なところだと思います。それがなぜ生じているのかということを各単位会で分析し、問題点があれば、世間に公表することが求められていると思うのです。
なお、現在、就職戦線で戦っている修習生にとっては、どこの単位会で弁護士が増えていて、あまり増えていない地域はどこなのかという情報は、少しは役に立つかも知れません。そういう意味で考えると、単位会単位ではなく、裁判所の支部単位で増加傾向を分析することに価値がでてきているのかも知れませんし、将来的には、支部単位で増加の余地があるところを探す弁護士がでてくるという時代がすぐそこまで来ているように思います。しかし、さすがに、支部単位での増加率の調査分析までは個人では無理です。日弁連や各単位会で分析をしていただければと思います。
2011/01/11
弁護士白書の数字から弁護士がどこで増えているのか分析してみる その4 急に増えたところは増えにくくなっている?
まず、前のブログに添付したエクセルの表にミスがあったので、再度修正しました。ご覧いただいていた方にご迷惑をおかけすることになりましたことを最初にお詫び申し上げます。申し訳ございません。
弁護士会毎の増加率に大きな変動があることは、既に述べたとおりですが、わかりやすくするため、3年をまとめて比較してみました。1年毎にしますと、1年限りの特異な傾向などもあるようで、傾向のようなものがかえってみえにくくなることがあるように思いますが、3年という幅でみると、傾向のようなものがみえてくるように思えたので、ここで紹介する次第です。
まず、1996年から1998年までと1999年から2001年までの3年単位での単位会の会員数を合計したものを比較して、増加率が高かったトップ10は、以下のとおりです。奈良や京都、横浜、千葉など大都市近郊と第一東京、第二東京が増えています。
1 奈良 120.11%
2 岩手 116.82%
3 福井 112.75%
4 旭川 111.94%
5 新潟県 111.35%
6 第一東京 110.55%
7 京都 110.32%
8 第二東京 109.55%
9 横浜 109.25%
10 千葉県 108.85%
逆に増加率が低かったワースト8は、以下のとおりです。宮崎県までは減少しています。いずれも人口過疎地域を抱える単位会です。ワースト8だけでなく、かなりのところが、数名しか増えていません。青森や鳥取では、この時期は会員数が減少していることに注目していただきたいと思います。
1 青森県 92.31%
2 鳥取県 93.59%
3 宮崎県 97.99%
4 大分県 100.00%
4 熊本県 100.00%
6 香川県 100.31%
7 秋田 100.41%
8 富山県 100.69%
次に、1999年から2001年までと2002年から2004年までの3年単位での単位会の会員数を合計したものを比較して、増加率が高かったトップ10は、以下のとおりです。釧路がいきなりトップにでてきます。第一東京と第二東京は増加率が上昇し、奈良と京都には増加傾向にかげりが生じます。
1 釧路 125.00%
2 旭川 124.00%
3 第二東京 120.52%
4 奈良 120.47%
5 第一東京 118.45%
6 千葉県 115.10%
7 宮崎県 114.38%
8 兵庫県 113.19%
9 京都 112.86%
10 岩手 112.80%
逆に増加率が低かったワースト8は、以下のとおりです。この時期は、徳島だけは減少しています。青森が姿を消していることに注目してください。鳥取もワースト5には入らなくなります。
1 徳島 97.39%
2 山形県 100.65%
3 秋田 101.37%
4 沖縄 102.09%
5 富山県 102.67%
6 鳥取県 102.74%
7 香川県 103.25%
8 熊本県 103.69%
次に、2002年から2004年までと2005年から2007年までの3年単位での単位会の会員数を合計したものを比較して、増加率が高かったトップ10は、以下のとおりです。釧路がトップを維持し、次に島根県と続きます。鳥取県と熊本県はワースト8からトップ10に入るという急激な増加となります。第一東京と第二東京、奈良、京都もトップ10から外れます。
1 釧路 140.00%
2 島根県 136.62%
3 岩手 132.62%
4 滋賀 131.94%
5 佐賀県 130.17%
6 鳥取県 129.33%
7 熊本県 124.63%
8 函館 124.32%
9 茨城県 120.68%
10 福井 118.75%
逆に増加率が低かったワースト8は、以下のとおりです。この時期になると、減少しているようなところはありませんが、沖縄がワースト1になり、福岡がワースト6に入ります。
1 沖縄 106.13%
2 静岡県 106.86%
3 高知 107.93%
4 秋田 108.11%
5 福島県 108.43%
6 福岡県 108.71%
7 徳島 108.72%
8 香川県 109.16%
次に、2005年から2007年までと2008年から2010年までの3年単位での単位会の会員数を合計したものを比較して、増加率が高かったトップ10は、以下のとおりです。青森がトップになり、鳥取、滋賀、島根と続きます。青森と鳥取の増加率は150%を超えていますから、仮にこの増加が新人によるものであるとすれば、4人に1人が弁護士経験3年未満と言ってもおかしくないような急激な増加となっています。
1 青森県 155.00%
2 鳥取県 154.64%
3 滋賀 144.21%
4 島根県 143.30%
5 福井 140.13%
6 釧路 135.29%
7 長崎県 135.22%
8 宮崎県 134.04%
9 福島県 133.92%
10 山口県 133.72%
逆に増加率が低かったワースト10は、以下のとおりです。大阪がワースト4、京都がワースト7、東京がワースト9となっているなど、増加率は大きく低下しています。なお、福岡県はワースト12、第二東京がワースト16、奈良がワースト17、第一東京がワースト21となっていますから、増加率は低下していると言えます。増加数が2000人近くになったときから、大阪や京都、東京、兵庫などの増加率が低下しているということは大都市を抱える地域でも、新人を雇い入れる余力が減ってきていることが示されているように思います。
1 沖縄 109.28%
2 函館 110.87%
3 新潟県 114.87%
4 大阪 115.08%
5 山形県 116.58%
6 岩手 116.82%
7 京都 117.50%
8 秋田 118.96%
9 東京 119.47%
10 兵庫県 120.19%
最後に、ごく最近の増加傾向をみるということで、2009年と2010年を比較してみました。増加率が高かったトップ10は、以下のとおりです。ここでは、しばらく増加率が高かった釧路が入っていないことに注意が必要だと思います。私は、急激な増加は、人口過疎地域では長くは維持できないということではないかと思います。
1 福島県 118.18%
2 鹿児島県 115.93%
3 青森県 115.49%
4 島根県 115.22%
5 佐賀県 114.06%
6 茨城県 113.91%
7 旭川 113.64%
8 富山県 112.86%
9 鳥取県 112.24%
9 千葉県 112.24%
逆に増加率が低かったワースト10は、以下のとおりです。ここでは、奈良がワースト4となり、直近の3年単位の比較ではベスト10に入っている宮崎がワースト10に入っていることに注意が必要のように思います。このことからしても、会員数が急に増加した地域では、あまり増えなくなる時期が生じるということになりそうです。
1 山形県 101.43%
2 大分県 102.73%
3 奈良 103.10%
4 沖縄 103.33%
5 香川県 104.17%
6 岐阜県 104.76%
7 大阪 105.38%
8 東京 105.43%
9 兵庫県 105.81%
10 宮崎県 105.93%
なお、東京や大阪の増加率が増えていないということは、最初は東京や大阪に登録したけれども、その後に登録換で他の単位会に移る弁護士がいるということも考えられます。そのような登録換の問題があるとしても、東京や大阪では新人弁護士の雇用を維持しにくい状況があるということが示されているように思います。
弁護士数推移分析表.xlsx
2011/01/08
弁護士白書の数字から弁護士がどこで増えているのか分析してみる その3 昔から多かったところはあまり増えていない?
東京、大阪、京都、愛知、福岡、沖縄、広島、岡山と続く順番は何かと言いますと、弁護士1人あたりの県民数が少ない順番ということになります。つまり、これらの地域は、日本の中では弁護士が密集している地域ということになります。そこで、これらの地域の増加率変化に注目してみたいと思います。
これらの地域について、1990年から2000年、1995年から2005年、1998年から2008年、2000年から2010年の人口増加率を並べると以下のとおりとなります。( )内の数字が上位から何番かということになります。都道府県の総数が47なのに52番があるということは、北海道と東京都で弁護士会が複数あるためです。全国平均と東京3会の合計値を末尾に記載しました。最初の東京の数値は、第一東京と第二東京を除いた数字です。
1990→2000 1995→2005 1998→2008 2000→2010
東 京 122.38(19) 133.68(19) 143.04(30) 158.42(38)
大 阪 127.50(12) 132.87(20) 138.17(37) 148.92(47)
京 都 119.84(22) 137.23(15) 142.00(32) 158.77(36)
愛知県 128.64(10) 115.84(18) 148.40(22) 168.41(28)
福岡県 124.60(16) 130.16(24) 142.61(31) 158.88(35)
沖 縄 104.09(47) 103.95(49) 114.53(52) 121.91(52)
広 島 117.73(24) 123.33(35) 137.85(38) 163.32(33)
岡 山 125.19(15) 121.66(37) 136.31(42) 171.95(26)
全国平均 124.10(**) 136.70(**) 149.35(**) 168.10(**)
東京3会 125.42(**) 140.87(**) 151.57(**) 169.42(**)
この数字から推察されることは、既に弁護士密度が高かった地域では他の地域と比較すると弁護士はあまり増えていない、特に東京や大阪などの大都市と従来から弁護士人口の多かった京都では増加率が悪くなっている、沖縄のように昔から弁護士数が多かったところでも増加が停滞している、特に大阪、京都、福岡は最近になって増加率が大きく落ちてきているということです。
ところで、最新版の弁護士白書による弁護士1人あたりの県内総生産が最も小さいところは東京で、その次は大阪→沖縄→京都→福岡→仙台ということになります。東京を除けば、ほぼこの順番と増加率の鈍化傾向は相関関係にあるように思います。
以上のことからすれば、私は、大阪や京都、福岡は、既に飽和状態になりつつあると言ってもいいように思います。
但し、東京は3会を合計すると、全国平均より増加率が上回っていますから、第一東京、第二東京の各弁護士会の増加率は全国平均を上回っているわけです。つまり、東京の中で東京弁護士会だけが弁護士があまり増えないという現象が生じているということになります。ひょっとして、東京弁護士会は新人を雇い入れる力が落ちてきているということになるのかも知れません。これは、最新の増加率が47位と急激に増加率が落ち込んできている大阪弁護士会にもいえることかも知れません。