2026 初春号 vol.22 白浜法律事務所報

コンプライアンスは誰のためにあるのか
弁護士 拝野厚志
1 はじめに
コンプライアンスに厳しく言われるようになってから、すでに久しく、新聞やテレビでも企業の不祥事がある度にコンプライアンスの観点から問題が指摘されます。食品の産地偽装、データ改ざん、労働基準法違反など、様々な企業でコンプライアンス違反が社会問題となっています。このコンプライアンスとは誰の利益のためなのか、少し考えてみたいと思います。
2 二つの国の例え話
例え話として、A国とB国という国があるとします。A国には様々な法律がありますが、形式的なもので実際には遵守されていません。国の権力者は法律を守ることなく、国民を牛馬のごとく働かせ、国民の間には権力者に対する不満がつのり、国外に脱出する者も少なくありません。優秀な人材は次々と国を離れ、国内には閉塞感が漂っています。
これに対し、B国では法律が厳格に遵守され、国民は法律に基づいて保護され、安心して経済活動を行うことができます。契約は守られ、財産権は保障され、紛争も公正に解決されます。人々は将来を予測でき、計画的に事業を展開できるのです。
さて、ここで質問です。新しい取引を始めようとするとき、A国とB国、どちらの国の企業と取引を行うでしょうか。また、工場を建設して長期的な投資を行おうとするとき、どちらを選ぶでしょうか。信頼できる企業と長期的なパートナーシップを築きたいとき、法律やルールを守らない文化が蔓延しているA国の企業と、コンプライアンスを重視するB国の企業、どちらを選びますか。
さらに、お子様がA国またはB国の王子様から求婚されたとき、どちらのプロポーズを受けるでしょうか。最終的に栄えていくのはA国でしょうか、B国でしょうか。答えは明白です。
3 コンプライアンスは信頼の証
まさにコンプライアンスが遵守できているかどうかは、取引先から見たときに、信頼して取引を継続することができるかの重要な指標となります。
一時的な利益さえ上げればいいということであれば、コンプライアンス無視のA国との取引でもいいかもしれません。しかし、そのような企業と取引してくれるのは所詮、同じような考えのところのみとなります。まともな企業、長期的な視点を持つ企業は、リスクを避けて離れていきます。
逆に、コンプライアンスを重視し、誠実に事業を行っている企業には、同じく信頼できる優良な企業が集まってきます。金融機関からの融資条件も有利になり、優秀な人材も集まりやすくなります。長期的には、このような信頼関係の積み重ねこそが、企業の最大の資産となるのです。
4 コンプライアンスは企業自身のための基盤
コンプライアンスというと、国や関係省庁が口うるさく規制しているイメージのように思われがちです。しかし、視点を変えてみてください。コンプライアンスの遵守は、御社が取引先、金融機関、顧客から信頼を得て取引をするための基盤であり、また市場で事業を行う上での最低限のルール、参加資格となります。
「そんなものを守っていたら会社が潰れてしまう」と言われることもよくあります。しかし、現在の風潮は、コンプライアンスをきちんと遵守できない企業には市場から退場いただいても構わないというのが主流となっております。SNSの発達により、企業の不祥事は瞬時に拡散され、一度失った信頼を取り戻すには膨大な時間とコストがかかります。
コンプライアンス違反によって得られる短期的な利益と、それによって失う長期的な信頼やビジネスチャンスを比較すれば、どちらを選ぶべきかは明らかです。コンプライアンスは、企業自身の持続的な成長と発展のために必要不可欠なものなのです。
当事務所も、コンプライアンスについて時に厳しいことも言わせていただいておりますが、このような観点からのものとご理解いただければと存じます。
中小M&Aに関する近年の課題
弁護士 青野理俊
過去の事務所報において、私は、幾度となく事業承継について書かせていただきました。今回は、①親族内承継、②従業員承継、③M&Aと分けられる事業承継の類型のうち③の中小M&Aについて書かせていただきます。
日本企業の多くを占める中小企業・小規模事業者に関し、後継者不在などを原因とする廃業問題の一つの解決手段として、中小M&Aが国を挙げて推進されてきました。これに当職としても法律家として積極的に関わるべく、昨年3月まで2年間、京都府事業承継・引継ぎ支援センターのサブマネージャーとして従事いたしましたが、ちょうどその頃より、問題ある中小M&A事例がマスコミでも取り沙汰されるようになりました。
問題ある事例の代表的なものとしては、契約で定められた対象企業の前代表者の保証債務を解除する努力もしないまま、買収した対象企業の資金だけを抜き取って事業運営をせずに対象企業を破綻させ、前代表者が自己破産まで余儀なくさせられるといった事例です。中小企業・小規模事業者にもM&Aが身近な事柄となったことに伴い、悪質な買い手や不誠実な仲介業者が中小M&A市場に紛れ込んできていると言えます。
本来、M&Aにおいては、買い手・売り手の双方が法務・財務・事業の各側面から相互に検証し、それぞれが単独で運営されるよりも生み出される価値が大きくなる相乗効果(いわゆるシナジー効果)の内容、実現可能性、必要なプロセス及びコストの緻密な検討が行われます。M&A実行後の、例えば従業員や取引先に対するサポート体制など、いわゆるPMI(M&A成立後の統合プロセス)こそが重要であり、実行後も対象企業が存続できなければ真の承継とは言えませんが、これを成功させるには、基本合意すら締結される前の初期段階から、このシナジー効果の検討作業が行われなければなりません。しかし、先ほどの問題事例では、このような検討作業が行われた形跡すら無いのではないでしょうか。
中小企業・小規模事業者の今後の事業戦略として、売り手と買い手を問わず、M&Aという手法は検討対象の一つに挙がると思います。悪質な案件に巻き込まれないためにも、また、M&Aを真に成功させるためにも、初期段階から継続的・根本的なサポートが重要であり、法律のプロである弁護士がお力添えできる分野ですので、お気軽にご相談いただけると幸いです。
交通事故に注力してます!
弁護士 大杉光城
今般、白浜弁護士の代表退任を機に、拝野所長及び青野副所長を支えるべく、私も弊事務所の社員として経営陣に加わることになりました。皆様により満足して頂けるよう、自己研鑽に励んで参りますので、今後とも変わらぬご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
さて、近年、私が力を入れている分野が交通事故案件です。弊所においても「交通事故被害者のための相談室」と題する特設ホームページを設置し、交通事故被害者の救済に注力しております。
数年前の私のコラムでも取り上げましたが、近年、交通事故発生件数は大幅に減少していますが、弁護士が交通事故案件を受任する件数は大幅に増加しております。これは、相手方保険会社から提示された賠償額が必ずしも適正ではなく、特に、怪我された場合の慰謝料の額や家事従事者(主婦の方など)の休業損害などは、裁判による解決例からみますと、適正でないことが多いからです(より詳しい説明や具体的な事例は、上記弊所特設ページをご覧頂ければと思います。)。
そして、交通事故事案で弁護士関与が大幅に増えた起爆剤といえるのが、「弁護士費用特約」の普及です。弁護士費用特約は、使用しても基本的には保険料は上がりませんし、また、弁護士も自由に選ぶことができるのが一般的です。この特約により、弁護士に依頼すれば費用倒れになるような被害額が僅かな事故でも利用できますし、本当に賠償額が増えるのかなとご不安な方も気軽に弁護士に相談ができます。
また、私が交通事故案件の中でも特に力を入れているのが、後遺障害認定です。後遺障害が認定された場合、百万円単位、場合によっては一千万円単位で賠償額が変わってきます。
保険会社から通知された認定に納得できない場合、異議申立手続ができますが、これに関しても成功事例がいくつもありますので、是非ご相談いただければと思います。
ご自身や周りの方が不幸にも交通事故に遭わせた場合、何らかの力になれると思いますので、まずは私にご一報ください。
次代に遺すべきもの
弁護士 中川由宇
「財を遺すは下、事業を遺すは中、人を遺すは上なり。されど、財なさずんば事業保ち難く、事業なくんば人育ち難し」※
築き上げられた財産や事業の承継が円滑になされるよう、私たちは、日頃から、遺言作成や株式譲渡・M&Aの支援、信託の組成等を行っています。その中で感じるのは、財産や事業を遺そうとされる方の、承継者・事業関係者の成長や幸せを願う気持ちです。その思いにお応えできるよう、日頃から研鑽を重ねるとともに、ご依頼者のご要望を丁寧にお聴きした上で、最善のご助言ができるよう努めております。
他方で、私たちは、相続紛争の解決に携わることも少なくありません。ご家族等の幸せを願っていたのに、遺言や相続に関する正しい知識や専門家による適切な支援が足りていなかったばかりに遺産を巡る争いが生じたのだとしたら、残念なことです。
紛争を防ぎ、多くの方の願いが実現されるよう、遺言、相続、信託等に関する正確な知識を広めていきたいというのが私たちの思いです。事務所の体制が一新されましたが、引き続き、皆様の信頼を得られるよう努めてまいります。白浜前代表の思いも引き継ぎ、正しい法律知識を普及させるため、今後も一般の方向けの講演等を行うほか、次代の法律家の育成にも取り組んでまいりたいと考えています。
弊所では、できるだけ多くの方に法律に関する知見をお伝えできるよう、昨年、ホームページのサブサイト「遺言・相続あんしん相談室」をリニューアルいたしました。
(https://shirahama-lo.jp/intestacy/)
本サイトでは、近年の相続法改正や新たな法制度の創設を踏まえ、次のテーマのコラムを掲載しています。
「同居の子と別居の子、どちらが多く相続する?」
(https://shirahama-lo.jp/intestacy/news/news-54/)
「増える遺言作成」
(https://shirahama-lo.jp/intestacy/news/news-53/)
この機会に、弊所のサブサイト「遺言・相続あんしん相談室」をご覧ください。
※明治・大正期の政治家、後藤新平が遺した言葉と言われています。人を育てることは、財産を築いたり事業を起こしたりする以上に大事なことですが、人は仕事を通じて鍛えられ成長するものであり、その仕事に励むことのできる環境を築くことの大切さをも説いた名言ではないかと思います。
見えないリスクを見える化する
事務長 田村彰吾
「そろそろ一線から退こうと思う。」白浜からのその一言が、私たちの日常を少し引き締めました。弊所に限らず、体制の変化は、組織の健康診断のようなものです。普段は当たり前のように動いている仕事の中に、どんな「属人化」が潜んでいるのかが浮き彫りにされます。
そもそも、弁護士の仕事というのは「個」の仕事になることが多いものです。一つの事件に一人の弁護士。経験や判断、責任が個々に完結しやすい。しかし、法律事務所という組織が持続的に機能するためには、この「個」の力をどう「チーム」の力に変えていくかが問われます。個性のある弁護士をまとめ、組織としての一貫性と再現性を持たせていくこと。これは、私たちのような中規模法律事務所に期待される重要な役割のひとつでもあると自負しています。
属人化の怖さは、トラブルが起こるまで気づかないことです。人が替わる、あるいは急に長期に休むことになる。そんなとき「何をしてきたのか」「どうすればいいのか」が明文化されていないと、チームは立ち止まってしまいます。だからこそ今、「見える化」が必要だと感じています。
私たちはここ数年、一般企業もそうであるように、業務のデジタル化を加速させてきました。クラウドツールなどを使って、情報を「頭の中」から「共有できる仕組み」へ。記録や経路を残すことで、「誰が・いつ・どのように」行ったかが明確になります。これは単なる効率化ではなく、組織の安全装置です。属人化を防ぐとは、「仕事を誰でも再現し、引き継げる形にしておく」ということなのです。
所長交代という節目は、こうした「仕組みの点検」を行う絶好の機会です。人が替わっても事務所が同じ質で動き続けるために、業務フローを整理し、責任の所在を明確にし、日々の情報を蓄積していく。それが、組織として「信頼の継承」、つまり単なる業務の継続ではなく、「信頼そのもの」を次代へ引き継いでいくことに外なりません。
見える化とは、「監視する」ことではありません。むしろ、「信頼を支える仕組みを作る」こと。個の力が見える形で連携し、重なり合っていくとき、そこにチームとしての強さが生まれます。
変化の時代にあっても、私たちは確かな基盤を築いていく。そのために、これからも「見える化」を進め、新代表と共に、安心して次の世代へバトンを渡せる事務所づくりを目指していきます。

