2021/12/14
2021/09/24
弁護士人口のシミュレーションと現実とはどう違っているのだろうか
Back to the Future Part IIは、1989年発表の映画で、この映画では2015年の未来にタイムトラベルしていたのですが、我々は、既に2021年を過ごしているわけで、映画が予想していた未来を通り越してしまっていることになります。1989年の時点で予想された未来は、今の我々が住んでいる世界とはかなり異なっていましたね。未来予想は難しいことなんだなと思います。
ところで、私が「司法試験に合格しても弁護士になれるとは限らない」とブログに書き込んだのが、2005年のことなのですが、このときに指摘していた就職難は、私の予想をはるかに超えて厳しいものとなりました。ただ、2018年頃より、司法試験合格者の就職難は大きく改善され、現在では、弁護士人口が増えない県が発生するという新たなゼロワン問題が生じるようになっているなど、弁護士人口をめぐる問題は我々の予想できないような変化を始めているように思えます。
結局のところ、貸与制の最後のあたりの66期ぐらいの方々が一番大変だったように思います。この方々が弁護士として頑張ったことが、結果的に新しい期の方々の就職難の解消につながっているのかも知れません。いわゆる谷間世代への支援は、この観点からも重要なことと思います。この苦難の時代から、今の就職状況にどのような経過で変化していったのかということは、色眼鏡をかけずに、冷静に分析する必要があるように思います。
別添のPDFは、弁護士白書に掲載された弁護士人口に関するシミュレーションを整理したものです。合格者が3000人となることが前提となっていたり、新規法曹が2000人ということが前提となっていたりするなど、その当時問題となっていたことが反映されているわけですが、シミュレーションよりは実際の弁護士人口の増員は少なくなっているようには感じます。なお、2011年から2014年までは新規法曹が2000人であったり1500人であったりした場合のシミュレーションも掲載されていますが、比較の意味では実際に近かったものだけを取り上げています。また、弁護士人口はいずれも3月31日現在のものが弁護士白書では示されています。2021年の3月31日現在の弁護士総数は私には確認できていませんので、現時点(9月24日)の日弁連HPからの検索結果が43,084人だったので、これを便宜上入力しています。
ただ、いずれにしても、我々弁護士は実験用動物ではないので、実験のような人口政策に踊らされる理由はありません。そうならないためには、実態、この問題については、就職難の現状とか、弁護士人口の増加がない弁護士会と増えている弁護士会との比較などのデータを整理して、立法事実として示すことが求められています。少なくとも、5年以上前の感覚で意見を述べるということでは立法事実とは乖離した主張となることに注意が必要です。かかる意味でも、過去のシミュレーションがどうだったのかということを振り返ってみることにも意味があるかなと思って整理した次第です。
2021/09/18
裁判官や検察官は増えなくなっている?
先日、弁護士の人口増加率はかなり鈍化していることを指摘しましたが、裁判官や検察官にいたっては、現時点で、既に増えなくなってしまっているように思われます。添付するPDFファイルは、弁護士白書から抜き出したデータから増加率を検討したものです。裁判官は、なぜか2016年に人口が大きく減少しています。その後は、あまり増えていません。検察官は、2019年からあまり増えていません。弁護士が増えているのに、裁判官や検察官の数が増えないのはけしからんと言われる方も多いとは思いますが、私は、官僚全体で縮小が言われている中、裁判官や検察官の数がこれまで増えてきたことは評価してもいいように私は思います。司法予算が増額されず、施設とか備品、特にPCなどの整備もあまり自由にできていないように思われる中でも、人は増やしているという姿勢は評価していいと思うのです。なお、なぜか、弁護士白書では、1991年より古いデータは掲載されていませんので、データは1991年からとなっています。
では、最近になって、なぜ裁判官や検察官が増えなくなってきているのか、その原因はよくわかりません。採用活動で、苦戦しているような話を聞いたことはありますが、修習生から漏れ伝わってくる話に過ぎないので、どこまで信用できるかはわかりません。
ただ、仮に上記の噂が本当だとした場合、合格者数が減ると、裁判官や検察官の確保が難しかった500人合格時代に戻ってしまう可能性はでてきているように思います。これをどう考えるかは難しいところです。
2021/09/16
司法試験の受験者や合格者の推移と弁護士人口増加率の推移
弁護士白書に示された弁護士総数の推移と司法試験の受験者や合格者を整理してみました。添付のPDFファイルをご覧ください。弁護士白書の最新版は2020年版ということで、2021年3月末当時の弁護士人口が、私には確認できませんからで、入っていません。合格者500人時代との比較をするため、1989年からの整理としています。なお、PDFファイルには1988年3月末の弁護士人口が入っていませんが、弁護士白書では13,288人となっています。
司法試験の受験者が最も多かったのは、2003年で50,166人で、この年の合格者が1,170人なので、合格率は2.3%となっています。法科大学院関係者からは、合格率が低いことが、法科大学院志願者が減っている原因かのような説明をされることがありますが、合格率は志願者と合格者の数から導き出される数字なので、法科大学院関係者の説明には論理のすり替えがあります。合格者が増えずに志願者が増えれば合格率は低くなりますが、合格者が増えなくても志願者が減れば合格率は高くなり、志願者があまり変動がない中で合格者を増やせば合格率は高くなります。合格者が499人しかなかった1990年は受験者が22,900人だったので合格率は2.1%と極めて低くなっています。合格率が低くても、受験者が増えている年の方が多いぐらいですし、予備試験の受験者は合格率が低くても増えていますので、合格率が低いのは、受験者が減る理由にはなりません。簡単に言うと、受験者が変わらないか増えているときに合格率が低いというのは、合格者を増やせということを言っているだけのことになります。今は、受験者が減っているため、合格率が高くなっていることから、法科大学院側からは合格率のことを問題にするような話は聞こえてきません。
2003年からは受験者が減っているのは、法科大学院に入学する人が増えたためと思われます。このことを考慮すると、司法試験の人気が最も高まったのは、2004年から2005年頃と思われます。
合格者が600名程度とされた1991年でも合格率は2%台でしたが、700名程度とされた1993年には合格率が3%を上回ります。それでも1996年には合格率は3%を下回ることとなり、合格者が1000名となった1999年でも3%には届きませんでした。合格率が3%を上回るのは、翌年から新司法試験が始まる2005年のことです。この年は旧試験の受験を諦めて、法科大学院に入学した人が多く存在し、在学中受験者はあまりいなかったことを指摘しておきます。
新司法試験が始まった2006年の新司法試験の合格率は47.4%と極めて高く、これが合格率としては最も高かった年となります。ちなみに、この年は既修者しか受験していないということで、合格者も1009人です。この年の旧試験は合格率が1.5%に下がっています。その後は、旧試験は合格者数が減ったため、合格率が1%に満たないことになります。新司法試験の合格率は、旧試験の最後の年である2010年でも19%という高い合格率でした。
新司法試験の受験者数は旧試験が終わってしまった翌年の2011年にピークを迎え、11,686人となりますが、その後は減少の一途をたどります。この年の合格者数は、2,063人です。新司法試験は、受験者数の減少が始まっても2013年までは合格者数を2000人程度にしていましたが、2014年には合格者を1,810人に減らし、以後は合格者数を漸減させていったため、2016年までは合格率は20%程度で推移していましたが、2017年より受験者の減少が顕著となって、合格率が23.2%となり、2019年には合格率が30.6%と30%を超えました。2021年の合格率は38.0%となり、新司法試験発足当時の合格率に近づきつつあります。
新司法試験の受験者の減少は、法科大学院の卒業生が減ったことが最大の要因ですが、予備試験受験者が増えたことで、新司法試験の受験者の減少は多少和らいだことになっているものと思われます。予備試験の合格者は翌年の新司法試験を受験できることになっていますから、予備試験の受験者を翌年の新司法試験の受験者数に加えた仮想的な合格率を考えてみると、旧試験の廃止の翌年である2011年は、予備試験合格者が新試験を受けていないため、仮想的な合格率は17.6%と高くなっていますが、 2012年から仮想合格率は10.4%となり、その後も、8%程度を保っていました。2021年は7.4%という高い倍率となっています。予備試験の受験者と法科大学院の学生が競争することによって、合格率を低く保っていたものが、予備試験の受験者の増加で仮想的な合格率がさらに低くなってきている、逆に言えば、司法試験の人気はもはや予備試験が支えていることになっているということなのかも知れません。
ちなみに、弁護士の増加率は合格者700人時代まで2%を下回っていました。最初に増加率が急増したのは、2001年の6.1%ですが(前年は2.3%)、これは、修習期間の短縮で2つの期の就職が1年のうちに行われたことが原因しているものと思われます。最大値は2008年の7.6%(前年は4.7%)ですが、これも修習期間の短縮が影響しているのではないかと思われます。しかし、以後は、増加率は、年々減少し、2020年には2.4%となり、合格者800人時代と同じような比率になってきています。これは、弁護士人口そのもの、つまり母数が増えたためと思われますが、増加率だけを取り上げれば、合格者が急増する前の水準に達するのはそう遠くないことのように思われます。2021年3月31日時点の弁護士総数は、既にわかっていることではありますが、弁護士白書には掲載されていません。ひょっとすると、2021年の弁護士の増員は1000人を切っている可能性もないとは言えないように思います。